第51話 探してる気配はネズミのではなくて、その主のだけれど‥‥。
「いつなの?あれから、帝に魔力が集中して、それからどのくらい経ったの?」
なかなか答えてくれないオルフェンズに焦れて、さらに言葉を続けると、くつりと笑いが帰って来る。
いや、そうじゃなくて。わたしは現状が知りたいんだけどぉ!?
「桜の君は、私が銀の紗で貴女をあの混沌とした場から連れ出したとお思いなのですね。その上で、その行動には何も触れず、ただ今はいつ、と。責めるでもなく全てを飲み込まれますか。――さすがは桜の君です。」
起こってしまったことや、どうにもならないことを悔やんだり、恐怖したりして焦る気持ちが無いわけじゃあないけど、そんな何の益も利も無いことをするよりも、その上でどうするかを考える方がよっぽど得られるものがあるじゃない。心残りが無いわけじゃないけど。頭の上を探っても、やっぱり緋ネズミの気配はそこには無いし。ううん、探してる気配はネズミのではなくて、その主のだけれど‥‥。
――んん?って言うか『連れ出したとお思いなのですね。』って言った?
「オルフェ!先の時間に飛んでいないのね!?」
「そんなに嬉しそうに言われると、却ってずっと先の時間へご招待したくなりますね。」
「なんっ‥‥!?」
次の言葉を発せられずに、鯉みたいにただ口をパクパクするわたしにオルフェンズは、いつも通りのヒンヤリとした薄い笑みを向けて来る。けど、ようやくいつものオルフェンズの表情に戻ったみたい。それは良かったと思うんだけど、先の時間への招待は断固拒否するわ。
「全く分かり易すぎて困ったものですね。そのようにあからさまに表情に出さないでいただけませんか?私では不足ですか。」
「何!?何か顔に出てた?オルフェはオルフェで不足も何も無いけどっ!?」
慌てて自分の顔をぺたぺた触って確認するけど、まぁ分かるわけないよね。どんな顔をしてるって言うのよーと、恥ずかしさ紛れにうーうー唸っていると、オルフェンズは「まあ、良いでしょう。」なんて小さく呟きながら、わたしの上体を更に起こして、記憶がとんだ後の事を説明してくれた。
実はわたしが気を失っていたのは、ほんの数分だった。けれどその短時間に円状庭園は、魔力が入り乱れて小規模な爆発じみた嵐に包まれ、正しく爆発後の惨状だった。
地面はあれだけ茂っていた草が地表から剥ぎ取られ、千々に飛び散り、あるいは焦げ付いて、茶色い土がむき出しになっており、その地表もあちこちが抉れて平らなところが一つもない。また、周囲の高い壁も、攻城兵器を使われたような大きな窪みや抉れた様な跡が付いている。
それらは、ここに居る4人と、ハディスの魔力の化身、そして『
消えてしまった緋ネズミの主人の身が心配だけれど、すぐには知る手段がなくて歯がゆい‥‥。
身体を起こして、わたしを覗き込んでいたオルフェンズの背後が見える状態になったら、しっかりと立って動いている2人の姿はちゃんと目に入った。
オルフェンズに抱え上げられて、散々に荒れた庭園の真ん中に位置する大きな帝石の傍にいる国王とミワロマイレの所まで行くと、2人は深刻そうな面持ちで静かに佇んでいる。
「良かった、こんな中にあって粉々にならなかったんですね。」
「破廉恥娘‥‥、お前がいると何でこうも予想外のことが起こるんだろうねぇ‥‥。まあ、今回の事は私たちの力も関わっているから大事になったんだろうけど‥‥。この石の状態が無事と言えるものなのかどうか、私には判断がつかないねぇ。」
ミワロマイレの言葉に目を向けた帝石は、一見無傷でその場に残っている様だけれど、よくよく見れば天辺から地表に接する底までの大きな亀裂が縦に走っているのに気付く。そして、先程まで帝石から天へと昇っていた金の魔力も、今にも消えそうな、か細い一筋を残すだけとなっている。
自身の命を削ってでも帝石に魔力を注ぐことで、フージュ王国を護ろうとしていたデウスエクス王は、随分と気落ちしてしまったのか、焦点も合わず呆然とした様子でただそこに佇んでいる。
「あぁ‥‥。」
デウスエクス王が、掠れ、くぐもった声を発しながらふらりと体を揺らすと、力無く開かれた掌から王笏がぽろりと零れ落ちて地表に転がった。
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