第49話 寂しさに慣れたつもりを装いつつも、それを埋め合わせるための執着心を強くしてしまった彼の心が少しでも安らぎますように。
オルフェンズは薄い笑みを浮かべながら、怜悧な光を宿した瞳で、デウスエクス王をじっと睨みつける。
「その魔力こそが、父母が苦しむ原因なのですよ。どれだけ他人の魔力を注がれても、生きている人間では、吐き気や嫌悪感しか感じないのと同じように、父母にとっても力になるどころか、周囲に大きな魔力の歪みを起こすことにしかなっていない。単なる自己満足の害悪ですよ。思い上がった国王を名乗る者が父に注ぎ込む、嫌悪感しかもたらさない魔力を受けた父母が自己防衛のために、反射的に一時的に残る力を振り絞っているだけ、それこそ生命をむしり取る行為をされているだけです。」
「まさか!そんな筈はないであろう!根拠も何もないことを連綿と代々の王が伝えて引き継いで来るなど考えられない!それとも女神や帝の声を聞いたとでも言うのか!?」
国王の怒声に、オルフェンズは怯むどころか更に短刀を取り出して切っ先を向ける。
「貴方こそ、効果のほどもはっきりしない行為を、ただ伝統的に続けられて来たからと言って妄信して繰り返すつもりだったのでしょうか?」
「それは代々命を懸けてこのフージュ王国を護ってきた国王たちに対する冒涜だろう!」
冷たい笑みを口元に刻みながらも全く目が笑っていないオルフェンズと、激昂する国王。
出来るなら、こんな殺伐とした心臓に悪い舞台に自分が上がりたくはないんだけど、オルフェはわたしの
「あのー‥‥盛り上がってるとこ悪いんですけど、わたし、多分、帝?の声が聞こえるかもしれない・わ?」
そっと挙手して自己申告してみた。
「「なんっっ‥‥!!」」
デウスエクス王とミワロマイレが揃って驚愕の表情でこちらを勢い良く振り返るから、反射的に飛び退いちゃったわ。
「さすが桜の君です。」
「ふぅわっ!オルフェっ、いつの間に!?」
真後ろから抱え込まれて、ドキドキするんじゃなくて、冷や汗が浮かんで心臓がバクバクする異性なんてオルフェンズくらいよね!?怖いからやめてー!!
「あのね、でも誰の声なんてはっきり分かる訳じゃないのよ?魔力の化身の声みたいに直接頭に響いて来る感じで、しかも会話出来るとかじゃなくって、思っている内容が勝手に伝わって来てるだけみたいな‥‥。」
「いいえ、ご謙遜を。それでこそ桜の君です。」
腕に力が籠った―――――!!怖い怖い!
と思ったら、勢い良く頭の上に緋色の大ネズミが飛び乗ってきた―――!?どこから来たのよ!?
「ちっ」
オルフェンズのあからさまな舌打ち。いや、一応お父さん?の前なんだからね?色々控えたらどうかな?
「オルフェ!?お父様が見ていらっしゃるんじゃないかなっ?」
「そうなのですか?父が何か言っていますか?」
「ううん、今は何も聞こえてないけど‥‥。」
さっき王様が魔力を送り込んだ時の苦悶に満ちた声以降、それらしい声は聞こえてきていないけど、でも確かに聞いたんだもの。
―――― で ‥‥ゆ る さ‥‥ な い ――――
あれは、何と言っていたんだろう?何か理由があって「許さない」と言ったのか、それとも「許さないで」と繰り返しているのか。そしてその言葉は誰に伝えようとしているのか?
「何て仰っているのかは分からないけど、弱々しい男の人の声が聞こえたのよ。他の人には聞こえていない‥‥のかしら、もしかして?」
はっきりと、耳に入って聞こえて来る訳でもないから、本当に聞こえているのかと言われると、自信満々には答えられないのよね。誰か他に聞こえている人がいれば答え合わせを出来るんだけどなぁー?
けど、デウスエクス国王とミワロマイレは互いに視線を交わして首を横に振っているし、オルフェンズも「残念ながら‥‥。」なんて切なそうに言うから申し訳なさすぎる。
「ごめんね、一番お父様の声を聞きたいのは子供の貴方なのに、わたしだけ。しかも何を言ってるのかもはっきりと解りもしなくて申し訳なさすぎるわ‥‥。」
「いいえ、もとより私は拾い児ですから‥‥聞こえないのは仕方がないのかもしれませんね。まだ私が10にも満たない幼子だった頃、魔力が体内に凝りすぎて魔物化しそうになっていたのを、父母によって救われたのです。母の稀有なる黒き魔力を操る術と、父の弱化の力で、魔物にならずに済んだのですよ。」
背後から抱き着いているオルフェンズの表情は見ることは出来ないけど、どことなく寂し気な声に、首元に巻き付いているオルフェンズの腕を片手で軽くトントンと叩く様に撫でた。
寂しさに慣れたつもりを装いつつも、それを埋め合わせるための執着心を強くしてしまった彼の心が少しでも安らぎますようにと願いを込めて。
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