第42話 あれ?カヒナシの二人の視線をビシバシ感じるんだけど気のせい?

「命を捧げる覚悟なんてそう出来ることじゃありません。けれど、命があればこそ何度でも最善を尽くすことは出来ます。格好は悪いかもしてませんが、共に生き残るため、とことん足掻いてみませんか?」


 ふぅー言い切った!これで摘まみ出されたなら仕方ない。まあ、ハディスの事は滅茶苦茶心残りだけど。


「破廉恥娘め、お前を隠し通せると思った私が愚かだったよ。」


 とことん呆れたミワロマイレの言葉に、思わずその顔を見上げると、嫌そうな顔をしているかと思いきや、意外にも柔らかな暖かい視線が返ってきた。肩甲骨までの鮮やかな黄髪をふわりと揺らしたミワロマイレが、わたしの前に、王からの視線を遮るようにそっと移動する。


「継承者と生まれ落ちて、この力が望む望まないに関わらず、国に関わる威力を持つことは分かっております。けれど、それはあくまでやむにやまれず行使しているにすぎない部分も大きい。不本意とは言わぬが、崇高な目的があってこの地位に就いているとは到底言えぬ私です。」


 意外にも、彼がわたしの言葉を引き受けて話を続けてくれた。


「この巫女の言うことは不遜で乱暴なものでありましょう。けれど、犠牲になりたくない、傷つきたくない、それらの思いは誰もが当然持っていること。私自身、生きんがためだけに神器を引き受けたのですからね。」


 目の前の男が不承不承大神殿主の役に就いていることは、初めて出会った時の無気力な態度から、察してはいたけど、生きるために継承者の役割が必要だったなんて思いもよらなかった。


「まずは陛下のご負担を考え直す機会を与えていただけませんか?」


 就かざるを得なかった役割だったと言うわりに、妙に神職者それらしい穏やかで思い遣りにあふれた声音で語るミワロマイレの言葉に、王は静かに頷いた。



 少し時間をくれないか――――。



 掠れる声でそう告げたデウスエクス王は、来た時と同じくゆっくりとした踏み締める様な足取りで謁見の間を後にし、残されたわたしたちは寛げるソファーのある別室へ移動して紅茶を供された。


「全く、胆を冷やさせるでないよ!」


 移動してすぐに美人のブチ切れ顔を拝むことになった。うん、なかなかの迫力ね。でも我慢できなかったんだもの。


「そうは言いますけど、さっきのは遠回しだけど、継承者のみんなに死ぬまで働けって言ってるのと同義ですよね?どんなブラック企業よ、あり得ないわ!ヒーロー願望がある個人が突っ走るのは止める気はないけど‥‥――多分。」

「お前、仕事をしないのは不満、するのも不満‥‥うるさい奴だ。が、さっきのは少し同意してやっても良いと思ったぞ。」

「ぇぇ‥‥、そんなことを大神殿主に言われるなんて‥‥甘い飴とか槍とかとんでもないものが空から降ってきそうですわ。」

「お前、私への敬意が無さすぎやしないかい?」


 紅茶を給仕してくれる侍女と部屋の扉の内外に立つ衛士、そしてわたしとミワロマイレ、荷運びの神官1人からなる神殿一行と、カヒナシ領の2人だけが居る部屋でやいやい言い合うわたしとミワロマイレ以外の人間は至って静かに過ごしている。


 あれ?カヒナシの二人の視線をビシバシ感じるんだけど気のせい?


「お久しぶりです、いつの間に巫女様になられたのでしょう?」


 誰だっけ?さっき気になった侍従じゃなくって、もう一人のイシケナルの代理の人の方が話し掛けて来たけど誰だか記憶にないわ。けど、この言いかたはわたしが巫女じゃないって知ってる感じなのよね、厄介な‥‥。

 うーんと、頭を捻りつつ顔を隠そうとヴェールを引っ張っていると、今度は侍従の方がその陰からひょっこりと顔を覗かせる。


「お姉さま、暫く振りの再会ですが、相変わらずの存在感で僕は頭が痛くなる思いです。」

「お前たちは何で王城で再開することが多いんだろうね。本当に行動まで、よく似通った姉弟よな。」


 ミワロマイレも侍従がヘリオスであることに気付いていた様で、にやりと口角を上げる。


「へっ‥‥ヘリオス!あなたなんでまたミーノマロ公爵の所に行ってるのよ。それに何でここに居るの!?」

「公爵の所に行ったのは、ご縁があったのか、たまたまそこへ向かう方がおられてご一緒させていただいたんです。代理の僕たちがここに居るのは、イシケナル様がいよいよシンリ砦の樹海対策でお手を離せなくなったからです。」

「まさかムルキャンが暴走しちゃったの!?」

「その逆です。あの人が居るからこそ持ちこたえている状態です。」


 まさかのムルキャン大活躍だった。まぁ、巨大トレントにもなっちゃってたし、色々規格外の存在になってるものねー。

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