第41話 いつ追い出されても良いように、言うことだけはしっかり言わなきゃね!
ちらちらカヒナシの使者を注視しながら、頭をすっぽりと覆ったヴェールを引っ張って顔が隠れるようにしていると、使者ではなく、侍従の方がこちらを見てギクリと身体を強張らせた。
「ほう?破廉恥娘
愉し気なミワロマイレの呟きが聞こえて来る。
えーっと?わたしの
似たもの家族ってことだろうけど。まぁ、家族だから色々似ていても不思議はないのに、なにを今更‥‥?
はっ!そう云えば、カヒナシの侍従の反応がおかしかったわよね!?まさか!
「国王陛下御来臨です。」
目当ての方向を見ようとした途端、響いた声に確認作業は中止となった。
静かに上座に現れた、かっちりとした黒のロングジャケットを着込んだ金の短髪の男が告げると、ミワロマイレを始めとした、その場に居る人たちが皆ゆったりとした動作で頭を下げた。カーテシーをしそうになったわたしは、慌てて姿勢を戻して頭を下げる。
こつ‥‥こつ‥‥
随分ゆっくりとした靴音が響き、その音の方から「みな、楽に。」と掠れ気味の短い言葉が聞こえてくる。さっきの紹介があった後だから、国王陛下の声のはずなんだけれど、なんだか聞き覚えのあるものと違う気がする。声としては同じなんだけれど、声質が随分弱々しいって云うか、張りが無い感じで。
恐る恐る顔を上げて、やっぱりと思う。
正面の一段高い玉座に着いた国王デウスエクス・マキナ・フージュは、以前『月見の宴』で見掛けたのと同じく、王冠を頭上に頂き、王族しか用いる事の出来ない『有翼の獅子』の文様と、国王その人を現す『太陽』の文様をふんだんにあしらった豪奢な衣装に身を包んでいる。けれど決定的に違うのは、堂々とした居住まいに見せようとはしているけれど、隠しきれない疲労と衰弱の色――艶のあった黒髪はパサつき、こけた頬と血色の悪さを隠すために施された化粧が一層国王の弱った姿を強調してしまっている。玉座の傍には同様の文様を施したドレスを纏った王妃が寄り添い、その背にそっと支える手を添わせている。以前は手にしなかった王笏を手にしているのは、身体を支えるためかと勘繰りたくなる様子だ。
「さっそくだが、『仏の御石の鉢』継承者ミワロマイレ・アッキーノよ、夜闇に天の川が掛かり、過日ついに月の欠片が流れ落ちるに至った。古の記録通りなら『
要請や王命ではなく、依頼だった事にまず驚いたし、国王の治世のためではなくて、国を護るためって断言されたのにも少し驚いた。自分自身もこの国を護るために力を使い尽くす覚悟があるってはっきりと断言されたし。
これから、始まるのは、そんな命に関わるような戦いなの?
そっと国王の面差しを眺めると、全てを受け入れている凪いだ表情がそこにはあった。国のために身命を賭し、力尽きて倒れてもいいとか思っていそうな表情だ。
「トップがそんな捨て鉢なんて冗談じゃないわ‥‥。」
ぽろりと零れた言葉は、緊張感でピンと張り詰めた静けさに包まれている謁見の間で、想像以上に大きく響いてしまった。ミワロマイレが顔色を変えて背後のわたしを振り返る。
「おいっ‥‥何を言い出すんだい!?」
国王直属の純白の騎士服を纏った護衛騎士たちが、完全にわたしにロックオンして、いつでも飛び出せるようにしているのが分かる。失敗したーとは思うけどけど、それならちゃんと言っておくべきかと気を取り直す。
わたしはミワロマイレの影からそっと移動し、その隣で恭しげ胸の前で祈るように両手を組み、立て膝で国王に向き合うようにしてそっと頭を垂れた。
勿論作法なんてさらっさら知らないから、世の中の人の幸せを願って祈りを捧げる、
「恐れながら、申し上げます。全てをなげうつ覚悟、結構でございます。けれど、臣下にまでそれを強要するのは勿論、国王陛下自身がはなから諦めておられるご様子は看過出来ません。」
目立っちゃったなら仕方ない、いつ追い出されても良いように、言うことだけはしっかり言わなきゃね!
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