第40話 いざ登城。念には念を入れた変装をしているつもり。
ギリムから、ミワロマイレが国王からの召集を受けた事に伴って、しばらく神殿と救護院の仕事をすることになると聞いていたわたしは焦った。召集の期日は分からないけど、既にハディスや王子が王城に詰めているから、そんなに日は無いんだろうってことは簡単に想像出来たから。
けど、すぐに召集に応じられたら学園のあるわたしが着いて行けないじゃない!
だから、わたしは
「調整ですわ。それにあの資料は生徒会でちゃんと使いますから無駄な作業ではないですよ。」
今着ている巫女服に似合うように、優雅に笑って見せると、ギリムは眉間の皺を深くする。
「くっ‥‥召集の事をうっかり話した、俺の落ち度か。」
心底口惜しそうに項垂れるギリムは、この一週間本当に頑張ってくれた。生徒会会計は、ギリムが休学するということで業務の滞りを心配したけど、しばらく安泰だ。
「それにしても、学園はちゃんと行くんだな。サボろうという考えがないのは破廉恥娘にしては意外だったぞ。」
静かに悔しがるギリムに苦笑を向けつつ、ミワロマイレが本当に意外だという風に言う。いや、どんな素行不良だと思われてるの、心外な。
「本職じゃないですから、一週間まるまる大神殿主に着いて行ってバレない自信はありませんもの。なら本来の身分の学生の領分はしっかり果たして、学園の休日に絞って潜入する方が合理的じゃないですか?」
「なるほど。」
納得の表情を浮かべたミワロマイレに、ギリムが顰めっ面を向ける。
「いや、大神殿主‥‥凄い事を言ってる風だが、結構なワガママで俺たちが振り回されているだけだ。単にバンブリア嬢の都合に合わさせられただけだからな?!」
「はっ‥‥!?なるほど。」
気付いたのね。結構早かったわね、さすがギリム。
「まあまあ、結果的にそうだったってだけですよ。今日は引き継ぎを少ししたら登城するんでしょ?時間は限られてますよ。わたしに構わずお早くどうぞ?」
「それすらもバンブリア嬢の都合にしか聞こえんのは気のせいか‥‥、まあ良い。」
どのみち引き継ぎはするしかないしな、とため息混じりに呟いたギリムは、ミワロマイレと登城前最後の引き継ぎを行ったのだった。
確かにハディスは言ったわ、王弟と騎士の両方の立場での仕事があって、決まりじゃないけど遅からず行くことになりそうだって。それでオルフェンズはハディスに向かって、自分は何のしがらみも無くて、ずっとわたしの側に付いているから、何の危惧も無く離れて良いって言ったのよね。
なのに2人揃って居なくなってるってどう云うことよ!?
登城し、外と城内を繋ぐ巨大な扉を前に、ミワロマイレを先頭にした神殿からの一行が並んで開門を待つ。わたしは長身のミワロマイレの真後ろを陣取らせてもらい、ヴェールを頭からすっぽり被った巫女装束で念には念を入れた変装をしているつもりだ。
この中にハディスが居るはず、そしてこの前は、入れるはずなのに入れてもらえなかった‥‥。
そう思いつつ入り口を見上げていたから、向ける視線が苦々しくなっても仕方ないと思うのよ。
「破廉恥娘、抑えろ。お前の感情で何か色々漏れ出てるぞ。」
「えぇぇ‥‥。」
そんな、締まりのない言い様をされるとなんかこう、悪いモノや、見られて恥ずかしいモノが出てるみたいに聞こえるからやめてー。けどちょっと平常心になったかも。うん、わたしは今はただの巫女なのよ。薄情なハディスやオルフェの事は頭の隅に追いやっておくわー!
「休日に絞ったのは正解だったな。」
笑いをこらえながら言ったのはどう云う意味!?くぅぅっ、漏れ出る何かが塞げてないのね。
謁見の間に通されたわたしたちは、そこで国王を待つ間、イシケナル公爵の代理として登城している男と侍従の少年と居合わせることとなった。
まずいわ、ついこの間カヒナシ領に行ってイシケナルからドレスを贈られて目立ちに目立ったせいで現地での宿泊中、暗殺者がひっきりなしに訪問して来る羽目になったのよね。だからわたしは、絶対に目立ってたと思うのよ。イシケナル大好きな人たちの集まる彼の側近だったら、この代理の人がわたしの事を知ってる可能性が高いんじゃないかしら‥‥。まずいわ、来てすぐに王族にも会わずに顔ばれの事態は避けたいんだけど。
ちらちらカヒナシの使者を注視しながら、頭をすっぽりと覆ったヴェールを引っ張って顔が隠れるように調節していると、使者ではなく、侍従の方がこちらを見てギクリと身体を強張らせる。
「ほう?破廉恥娘
愉し気なミワロマイレの呟きが聞こえて来た。
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