第39話 にやにや笑う聖職者ってどうよ?!んもおぉ―――!

 世情が不安定で気持ちが落ち込む皆さんのために、お祈りをしたくて立ち寄ったと言うわたしに、黄色い髪の美丈夫が、何をわざとらしいことを言っている?と言わんばかりに、こちらに向ける視線を剣呑にする。


 ううっ手強いわ。はなからそんな疑って掛かってこなくても良いじゃない。まあ、ただの耳障りの良い、本心でもなんでもない建前だからわざとらしいのは認めるけど。やっぱりわたし、お伽話の『かぐや姫』を神様みたいに思うことなんて出来ないもの。


「多忙だ、目的を、言え。」


 くっ‥‥挫けそうだわ!そんな鬱陶しそうに、切って捨てるように必要最小限で話そうとしなくたって良いじゃない。けど頑張らなきゃ!ハディスに会うんだもの!


「では、はっきり言います。大神殿主だいしんでんぬし?さま、が、王城へ近々行かれるって聞いたので、一緒に合法的に着いて行きたいなぁー、なんて。出来ますか?」

「なんで呼び名が疑問形なんだい?さては私の肩書をちゃんと覚えていないね?しかも敬意の欠片もない敬称など付けるでないわ!わざとらしい。」

「じゃあ‥‥ミワロマイレ?」

「呼び捨てかい!ふざけてるのは破廉恥娘の存在だけで充分だ。せめて形だけでも『様』を付けろ!」

「えぇぇぇ‥‥。」

「おい‥‥。」


 地を這うような低音にハッとする。

 しまった、お願いしなきゃいけないのにしくじっちゃった―――!


「ごめんなさい。うっかり口が滑りました。」

「だからそれは欠片も悪いとは思っていないよな!?分かってはいたが、そもそもお前は私のことを腑抜けだとも抜かしていたしな。ならば腑抜けはそんな大それた真似はしないもんさ。それに、私に何の利がある?百害あって一利なしではないか。期待する方がどうかしているだろう。」


 うん、確かにそうなんだけど、他にお城に入れるような伝手は、ただの男爵家やその経営する商会程度だと無いから困っちゃってるんだよね。だからこそ、偶然手に入れたお城に呼ばれてるミワロマイレって云う、またとないグットタイミングな伝手はどうしても手に入れたいの!

 ならば、この屁理屈はどうかな!?


「神職者は奉仕の心で出来ているんじゃ無いんですか?」

「評価や利益が伴わんと、再びムルキャンの様な離叛者が出るであろう。私も学んだのだ。」

「尤もそうなこといってるけど、ムルキャンさんが金策に走ったのは、大神殿主さまが奉仕ばかりしていたからじゃなくて、面倒な運営業務をサボってただけでしょう‥‥。」

「むっ‥‥。」


 おっ!?ちょっと隙が見えた!?よし、あと一押し!


「お仕事、無償でお手伝いしちゃいますよ!?1人では断られた入城も、招かれてる大神殿主さまの侍従にでも紛れれば、入れそうじゃないですか。お城への同行さえ認めてもらえたら、荷運びでも何でもしますよ?わたし力仕事とプロデュースなら自信がありますから!」

「なんだい、その振り幅は‥‥。力仕事は娘の仕事じゃないだろう、普通は‥‥。」


 げんなりと肩を落としつつも、来た時ほどの刺々しさは無くなっている。そして、いつも面倒そうなミワロマイレにしては珍しく思案顔をすると、口許に拳を当ててボソボソと呟く。


「まあ、本来城へは入れるはずの破廉恥娘がなぜ入れなかったのか、ちょっとばかり興味はあるがな。」


 ん?ちょっと待って、今聞き捨てならない言葉が聞こえた気がするわ。‥‥と思ってたら、ミワロマイレの晴れやかな、けど意地の悪そうな笑顔がこちらにぐりんっと向いた。


「ところで、どういう風の吹きまわしで私に声をかけたんだい?お前なら、い――――っ‥‥っつも一緒にいる、赤いのと親密だし、紫の公爵とも懇意だろうよ。」


 くうっ、この笑顔‥‥何か勘づいてるわねっ!それで敢えて嫌なところを突いてきたわね。下手に何か言って、ハディスと何かあったって思われるのも嫌だしぃぃ――。


「あらかた赤い王弟殿下と何かあったんだろう。破廉恥娘がらしくなくぐずぐずしておるから。」


 にやにや笑う聖職者ってどうよ?!んもおぉ―――!


「あの時も憤慨してはおったが、結局去れば追うだけの執着はあるのだろう。認めたらどうだい?」

「そんなんじゃありませんー!報告義務を果たしてない護衛に注意をしに行くだけですー!」


 散々からかった末に、ようやく同行を認めてくれたミワロマイレには感謝‥‥したくないけどね!






 それから数日後、王立貴族学園も休みの週末。中央神殿では登城する大神殿主ミワロマイレが、出立直前にして最後の、神殿司ギリムへ業務の一時的な引き継ぎ打合せの席を設けていた。


「んなっ‥‥!何でお前がいる‥‥っ。もしかすると学園のある平日中ずっと生徒会会計の業務だとか言って訳のわからん調査資料や表を俺に作らせ続けたのは、休日まで俺と大神殿主の引継ぎをさせないための引き延ばし工作だったのか!!」


 神職者らしい純白のすその長いローブに片眼鏡モノクル姿のギリムの大声が、静謐な神殿内に響き渡った。

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