第30話 まるで光の繭に包まれているみたい‥‥。
ハディスに向かって真っすぐに頭から飛び込んだわたしは、さっと顔色を変えた信頼する護衛にそれなりのダメージを与えつつ、ワイバーンの魔力の切れ目に飛び込むことに成功した。
「ぐっっ‥‥!」
「っつーっっ!!」
鳩尾に、2人分の体重と勢いを乗せた頭突きを受けたハディスが呻き声を漏らし、突っ込んだわたしも思わず王子から両手を離して頭を押さえつつ悶絶する。
「大丈夫か!?2人ともっ!」
ただ一人、素早く起き上がって声を掛けて来た、この場のキーマンであるアポロニウス王子の安全は死守出来たようだ。良かった。
「「大丈夫だからっ!早くワイバーンを!!」」
「あ、ああ。分かっている。」
痛みを堪えた2人分の必死の形相に慄きつつも、次の行動に移ろうとしたアポロニウス王子は、けれどワイバーンの巨体にどう取り掛かればいいのか視線をさ迷わせている。
「僕の剣を使え!刺さっているまま弱化の魔力を流せばいい!!」
「はっ‥‥はい、叔父上!」
ハディスと、剣の柄を握るよう導かれた王子が並んでその場に膝をつき、揃って深々とワイバーンの背に沈み込んだ柄に手を掛けたその時、ふいに足元が大きく傾ぐ。
『ゲギャァァァ――――――ァァッ!!』
頭を拘束していたトレントを仰け反って跳ね飛ばしたワイバーンの叫び声を聞きながら、わたしは突如襲われた浮遊感と、驚愕に目を見開いたハディスとアポロニウス王子の表情で、自分が吹き飛ばされたことに気付いた。2人の顔に悲痛な色が混じっていることに気付いて大きく笑って見せる。
――ダメだよ、そんな不安げな顔してたら上手くいくものも出来なくなっちゃうから。自信を持って!きっと出来るから!!
「王子、魔力を!!大丈夫!できるっ!!」
言葉を掛けるのと同時に、わたしの身体から抜け出た桜吹雪のような淡い光のきらめきが王子に向かって吹き付けて行くのが見えた。きっといい感じに強化の魔力が飛んで行ったんだろう。アポロニウス王子はきっとやってくれる。
わたしだって何とかしなきゃ!
「セレ!手を!!」
咄嗟に声のした方へ腕を伸ばす。けれど同じように腕を伸ばすハディスの姿は完全に宙に浮いたわたしの足よりも向こうに見える。これじゃ掴めるわけないじゃない!と思った瞬間、容赦ない力で右足首をひっ捕まえられた。
「なっ!!?」
ぴったーん、とごつごつしたワイバーンの背中に同じく背中を打ち付けて、わたしは何とかワイバーンの上に留まったみたいだ。
「いっつ―――!!何てことするんですか!?」
「非常事態でしょ!?格好良く抱き留められるならやるし、むしろ僕だってそうしたいけどっ!なんで頭から落下してきたり、後ろに撥ねたみたいな飛ばされ方して行くの!?わざとなの!?」
いや、悪気はないのは分かってた。けどあまりにも不格好なのが続いて、恥ずかしいが過ぎると何かのせいにしてツンケンしたくなるじゃない!角を立てないためにデレを入れたら良いの!?
「そんな利のない事はわざわざやらないもの!ハディを頼りにしてるところはあるけどっ。」
「――っ!‥‥ん。分かってる。」
渾身のデレに一瞬眉を跳ね上げたハディスだったけど、すぐに頭ポンポンの反撃が返って来た。
なに、このお返し?今の攻撃対象はわたしなの!?って、頬に熱がかぁっと上ったのを感じた次の瞬間、ぶわりと全身を悪寒が駆け抜けた。え!?実はわたしハディスのこと嫌いだった!?違うよね?そうじゃないから困ってるよね?と、若干の混乱をに陥りつつ、胡乱なハディスの視線にようやく我に返ったのはナイショだ。うん、これは他人の魔力を感じた時の嫌悪感だったわね。
目に映るアポロニウス王子の体全体から迸る黄金色の魔力が桜色の欠片と混じり合って、王子の身体を中心にした輝く球体を創り出す様に、辺り一帯に物凄い勢いで広がって行く。
まるで光の繭に包まれているみたい‥‥。
息を吸うことも忘れて、神々しい光の塊に思わず見惚れている視界の隅では、ワイバーンが絶叫の形で口を大きく開いたまま声すら出せない苦悶の表情を浮かべ、巨大トレント達も全身を覆った黒い魔力と、通常の木々とは異なる禍々しい色を急速に失って行く。
ずずん‥‥と、鈍い音と振動が伝わって来て、視界が僅かに下がったことで、それが力を失いつつあるワイバーンの膝をついた音だと気付いた。
「今こそ好機!かかれ―――――!!」
「「「「「おぉぉぉぉ―――――――ぉぉ!!!!」」」」」
地上では、レヴォルの号令を皮切りに領主軍の
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