第28話 兵士の意気込みを無駄には出来ないわ。
「あぶなっ!!ハディ‥‥くっ。」
ハディスと言おうとしたところで、何だか圧のある笑顔で制されたわ!?
青龍は、急に行動を指示していた髭を解放されて戸惑うみたいにキョロキョロと首を振ってるけど、わたしは王子を抱えて手が放せない。ハディスは、ふらふら動き出してしまった青龍からワイバーンを見下ろし、何かのタイミングを測るようにじっとしている。
「アポロニウス王子!悪いですけど、自力で掴まっててください!」
「え!えぇっ!?」
王子の腕を自分の首に回させて、強引に背中側に移動させれば、幾分か身体は動かしやすくなった。肩と首は痛いけど仕方ない。
急いで青龍の髭を掴み直し、動きを制御し始めると、すぐに青龍は落ち着きを取り戻す。
と、その時、ふらつきが無くなった青龍の背からワイバーンを見下ろしていたハディスが、突然ロングソードを構え、全身に纏った魔力の毛皮を解くや、空中へ身を躍らせた。
「ハディ!」
「叔父上!!」
飛び降りる勢いも合わせて振り下ろされたハディスの剣の斬撃は、膂力の赤い魔力を纏ってワイバーンの作り出す魔力の障壁を切り裂き、ゴツゴツした背中へ深々と突き刺さる。ハディスはその剣を支えに無事降り立った。
『ゲギャァァァ――――――ァァッ!!』
怒声とも、悲鳴ともつかない咆哮を上げたワイバーンが、ついにトレントから牙を抜き、ギラつく赤い眼でこちらを睨め付ける。
「いや、ちょっ‥‥誤解よ!誤解だけど理由に気付いてもまずいし‥‥取り敢えず離脱よ!」
「うわぁっ!バンブリア嬢っ、ワイバーンの口がっっ!!」
「大丈夫です!任せてください!!」
立ったままの大人を確実に一口で納められそうな大きな口が、鋭い光を放つ牙を見せつけて凄い勢いで迫って来る。
「重役を前にしたプレゼンの時みたいに、程よい緊張感はより良い成果を出す助けになるわっ!ピンチはチャンス!わたしはハディスも王子も青龍も守るんだから!」
緊張で乾いた唇をペロリと舐め、青龍の髭を引いて操ってワイバーンの首の制動範囲から一旦逃れる。牙の届かないギリギリのところで、ハディスから目を離さないように付かず離れずの距離を保つと、切り裂かれた障壁がまだ閉じていないのが目に入った。
「アポロニウス王子、見えましたか?ハディ‥‥ハディス様が降り立った部分の障壁が切れています。いつまで保つか分かりませんが、あの部分に王子の力を使いましょう!」
未だに忌々し気にこちらを注視しているワイバーンの頭上を青龍で旋回しつつ、羽の付け根で支えにした剣を握り締め、期を待ってじっと息を凝らすハディスの姿を確認する。
「けど、どうやって近付く気だ!あのワイバーン、完全にこちらを敵として認識して注視しているぞ!?叔父上の居る背中へどうやって回り込むんだ!?」
「スピードで何とかいけませんかねー‥‥。」
青龍に指示を送って、出来るだけ速く旋回をしてみるけれど、ワイバーンはその動きにぴたりと合わせて長い首をこちらに向け続けてくる。それどころか、回れば回るほど‥‥。
「「う"ぅぅぅっ‥‥。」」
ダメだ!これダメなやつよっ!!折角吐き気から逃れて青龍の背にこんな所まで飛んで来たのに、吐き気の方を再来させてどうするのよ!?
「うぷ‥‥別の手を考えましょう‥‥。」
「あ"ぁ。」
けど、どうやってあのワイバーンの裏をかこう。巨体の割に俊敏だから、速さだけでなんとかなる相手じゃない。
「セレネ嬢!あいつに近付ければいいのか!?」
いつの間にか、随分とワイバーンとの距離を詰めて来ていた領主軍からレヴォルが大声を張り上げる。
「お兄様!?あまり近付いては危険です!!あのワイバーンは今、魔力で自分の周りに見えない障壁を築いて、先程以上の防御力になっています。今までと同じ攻撃は通りませんっ!」
「はははっ!そもそもが致命傷には至らんのだ。今回もまた追い払うに留まるだけかと危惧していたが、セレネ嬢達にはこちらが思いもしない手がある様だからな。協力させてくれ!捨て駒にでも何にでもなるぞ!」
「捨て駒なんて冗談でもやめてください!?」
「冗談だ。むざむざやられる気はない!だがエウレア領主軍の意地を
言うや、こちらの返答も待たずにレヴォルは疾駆する軍馬の蹄を響かせて、同じく騎乗する兵士たちに合流すると大声で指示を出し始める。歩兵たちは距離を取りつつ巨大な
無茶はしないで欲しいけれど、作ってくれるきっかけと、兵士の意気込みを無駄には出来ないと、領主軍の動きに合わせるべく注視していると、一塊になって進み始めた騎馬隊の先頭を行くレヴォルが抜身のロングソードを頭上に掲げ、怒声に似た大声を張り上げる。
「今こそ
「「「「「おぉぉぉぉ―――――――ぉぉ!!!!」」」」」
大気を揺るがす
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