第21話 何かワイバーンの狙いは違う気がするのよねー?
スバルのお兄様をはじめとした領主軍の皆様には、青龍の姿は見えず、空に浮かんだわたしたちの姿だけが見えていたようだ。
わたしが今まで実際に見た、
「説明すると難しいんですけど‥‥わたしたちは魔力の塊に乗ることによって浮かんでいるだけで、自分の力で飛んでいる訳ではないんです。」
「けれど、何かの助けがあるにしても‥‥さすがにすごいな。そんな力があれば、我々もあの
武人らしい豪快な笑いをしてみせたレヴォルは、けれど以前見たよりも若干こけた頬や、擦れて傷ついた鎧に汗と埃で固まって顔に張り付いた髪など、隠しきれない疲労の色が浮かんでいる。遠く離れた王都にいるスバルを呼び戻すだけあって、エウレアでは随分苦戦を強いられているのだろう。
小隊を見渡せば、剣を杖に立つ者や、仲間の肩を借りる者も多数いることが分かる。負傷者多数の中、彼らはこの山の麓までワイバーンを追って来たとのことだった。だとしたら、その標的だった魔物はまだこの近くにいるのかもしれないと考えてゾッとする。
「空からはワイバーンの姿は見えたかい?」
「見掛けませんでした。――ついでに言うなら、特に変わった魔力も感じなかったので、警戒すらしていなかったって言うか‥‥お役に立てず申し訳ありません。」
「いやいや、確認しておくけど君は普通の貴族のご令嬢だろ?討伐に慣れた戦士や冒険者じゃなし、うちのスバルもそうだが、魔物や魔力の気配や色を察知するのを標準的な能力みたいに思ってるのは普通じゃないからな?」
何だろう、黙ったまま青龍の背に座った2人の視線に「そーだそーだ!!」なんて声を感じるわ。
「いえいえ、スバルはそれらの他に、さらに剣まで扱えるんですよ!同格の様におっしゃられるのなんて申し訳なさすぎますわ。わたしなんて足元にも及びませんもの。それよりもワイバーンはいつ見失われたのですか?」
「うん?あーそうだな、奴は昨夜麓の放牧場で家畜を襲っているところを発見し、何とか倒そうとここまで追って来たのだが、日の出と共に姿を隠してしまった様だ。だが、お互いこんな隠れようもない岩山の中腹だ、警戒に当たりながら小休止を取っていたところだ。」
「領民の被害は!?」
思わずといったようにアポロニウスが声を発すると、それが誰であるかを察したのであろうレヴォルは、ぎょっと目を剝く。「は?はぁ!?」と、戦士らしい精悍な顔からは想像できないほど素っ頓狂な声を上げて、信じられないモノに向かって指を上げたり下げたりを繰り返して混乱のほどがうかがえる。
うん、分かるよその気持ち。王子様が何故かお姫様抱っこで青年ハディスの膝の上に横座りしている混沌状態だものね。
けれど、深刻な表情を崩さない王子を見て、すぐに気持ちを切り替えたレヴォルは落ち着いた様子で淡々と事態の報告をした。
領民の避難は上手くいっており、軍以外への人的被害は今のところ出てはいない。当初から破壊よりも生き物に襲い掛かることに執心していた様子のワイバーンは、人間を守るために配備された辺境軍の防備に隙がないと見るや家畜を襲い出した。襲われた家畜は肉を喰われると云うよりも、生命力を取られて死んでいる様な、致命傷らしきものの見当たらない不可解な死に方だった。
「奴め、器用に危害を加え、破壊しては飄々と何処かへ姿を隠してしまう。建物を壊すのも、そこを壊せば隠れている家畜が出てくると分かる所だけを狙っている様な不気味な意図を感じる。ここで姿を隠しているのも、見晴らしの良いこの山肌で、疲れた我々が油断するのを待ち望んでいる様な気がするのだ。」
歴史学の発表にも散見された『
「この山を越えれば、カヒナシへ続く樹海が広がるだけだ。あの様に人も住まない深い森に生き物に執着するワイバーンが向かうとは思えん。狙うならこちらだろう。だから私は、奴が確実に餌としてこちらを狙ってくる今こそが正念場だと思っている。」
信念に満ちたレヴォルは流石スバルのお兄様らしい武人らしい考え方だと思う。けど自分達を囮にするのは戴けないし、何かワイバーンの狙いは違う気がするのよねー?
引っ掛かりの正体がはっきりしないわたしは、うーんと悩みながら首を傾げた。
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