第18話 ひゃっほう!パジャマパーティ!

「大切に思う令嬢一人護れない男が、大層な肩書だけ持っていても滑稽なだけでしょう?君がさらりとやることを、僕がやって無茶だって言われるのは情けないし、悔しいんだけどー。」


 へにゃりと眉根を下げて、複雑そうな表情を浮かべたハディスは、更にぼそぼそと「そっかー、ヘリオス君はこんな気持ちだったのかー。しかも生まれてからずっとかー‥‥。」なんて溜め息と共に呟いている。


 いや、ヘリオスはやればできる凄い子なんだからね?ハディスだって、剣術とか魔力の化身とか、わたしに出来ないことが色々出来るとてつもない実力者なんだけど‥‥。自己肯定感低すぎない?


「ハディス様は凄いですよ?いつだって先回りするように護ってくれる、勿体無いくらい格好イイわたしの護衛ですよ。」


 感謝と好意を混ぜて、にっこりと笑ってみせると、ハディスは軽く目を見張り、それからぐぐぐっと唇を噛み締める。「何でこんな時に言うかなぁ‥‥。」なんて、またモゴモゴ言ってるけど話の流れだから仕方ないわよね?


「いい加減‥‥2人の世界に浸るのは終わらせてくれないだろうか‥‥?」


 急に想像もしなかった第3者の声が割り込んで、ピョコンっと両肩が跳ねた。

 まさかと思いながらも、聞き覚えのある声が聞こえた辺りに視線を動かすと、ハディスの左腕の先が、荷重に耐えるようにぐっと力が入った状態で、下方に伸びているのに気付いた。そのまま視線を腕の先に添わせると、某滋養強壮ドリンクのコマーシャルの様に手を繋いだ宙吊り状態のアポロニウス王子が憮然とした表情でぶら下がっているのが目に入る。


「あっっ、ぽろにうす王子ぃー!?」

「セレネに引き摺られた僕を助けようとしてくれたんだけど、2人揃ってこのざまなんだよねー。参ったね。」


 あっはっは、と乾いた笑いを漏らすハディスだけど、笑い事じゃない!


「わたし、王族2人も宙吊りにしてるんですか!?」


 まずい!何かあったら首が飛ぶわ。早く地面に戻らないと、取り返しのつかないことに‥‥。けどそのためには青龍を宥めないといけないから顔までの移動が必要で、そのためにはこの2人をぶら下げたまま移動しなきゃいけない。‥‥いや、それって危険すぎるでしょ!!王族でも協力してもらわないとっ。


「ハディス様!王子!!ぶら下がってるだけじゃなくて、この子に乗れるように努力してください!」

「は!?何言ってるの!?乗れたら苦労しないし、普通魔力の化身には触れないからね!?」

「わたしはこの通り触れてます!青龍と緋ネズミが喧嘩出来たように化身同士の場合や、トレントに攻撃した緋ネズミの場合みたいに魔力を帯びすぎてる魔物と化身とでは干渉出来るんです。つまり、魔力を介してなら触れるってことです。だから、わたしみたいに魔力を体の外側に纏ってください!」


 魔力操作は、想像する力が大きく影響する。わたしは前世の記憶に残る『魔法使い』『アクションヒーロー』みたいな空想力を刺激する物や、前世にだけ存在した物を魔力で再現しているだけで、決して優れた魔法使いじゃない。感じ取れる魔力の量はハディスやオルフェンズ、そしてアポロニウス王子には叶わないと思うし、魔力の扱いはギリムやムルキャンの方が優れているだろう。

 そんなわたしが出来たものが、他の人に出来ない訳がないのだ。ヘリオスだってわたしの出来る事ならなんでもこなしてしまうんだもの。


 目の前に具体例を体現した着ぐるみパジャマ姿のわたしが居る。それだけで、きっとハディスとアポロニウス王子には同じことがすぐに出来てしまう。そう思うのに、2人はすぐに試みる訳でもなく、何かを譲り合うように目くばせをしあって、全く魔力操作をしようとしない。


「大丈夫です!わたしよりもずっと優秀で凄い2人になら間違いなく出来ます!わたし、お2人の実力を信じてますから。わたしのこの格好を頭の中で再現してみてください、きっと2人なら出来るはずですから!」


 信じている気持ちを笑顔と共に全面に押し出して2人へ向けると、ハディスと王子は無言のまま物言いたげな表情で見詰め合い、意を決したように魔力を発動させる。すると、思った通り2人はあっさりと魔力を纏うことに成功した。ハディスもアポロニウス王子も、わたしとお揃いの緋ネズミの着ぐるみパジャマ姿になって何とも言えない表情でプルプルしている。


 ナニコレ、2人とも可愛いんですけどっ!パジャマパーティーみたい!ひゃっほう!


 ――と思ったのも束の間。


「え!?わ、待って!これってマズイ!」


 ハディスが王子と繋いだ手を見ながら叫んだ。見れば、王子が触れた部分のキグルミが搔き消されてしまっている。


「――‥‥あぁ。成程。」


 アポロニウス王子が、繋いだ手元でどんどん消えてゆくハディスの着ぐるみの袖を見ながら納得の表情で頷く。


「私の魔力は他人の魔力を弱めてしまうんだ。」

「え!?」


 聞いた事のない魔力の効果に、さすが王族と思うと同時に、嫌な予感がじわりと迫る。


「じゃあ、もし王子が魔力を纏ったその着ぐるみパジャマ姿で青龍に触ったら‥‥。」

「最悪消えてしまうかもしれんな。」


 あっさり言わないで―――!!


 慌てたわたしとハディスが、即座に王子へ魔力を解除するよう懇願したのは言うまでもない。

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