第67話 燃えてるの?アツく応援してくれてるの!?
「あー‥‥ポリンド講師?お取り込み中でなければ、お邪魔しても?」
「は?」
何だかポリンドと訳アリそうな年嵩のご令嬢と、これまたポリンドに向ける並々ならぬ懸想の念を隠そうともしないぎらついた雰囲気の男の2人に迫られたポリンドに、恐る恐る声を掛けてみた。
え?修羅場?三角関係?ってかポリンドが取り合いになってる?
「子猫ちゃん?いくら弟と懇意のアナタでも、言って良いことと、悪いことがあるんだけどぉー?!ふざけてるのはその恰好だけにして!!」
ふるふると震えたポリンドは、こちらに向かってびしりと人差し指を突き付ける。
うん。気持ちは分からない訳じゃない。
「あー、ふざけてるわけではないですよ?この状況には色々と理由があるんですから!」
そう、この状況に至った理由は龍がいよいよ限界とばかりに、地上に身体を打ち付けんとするほどの大暴れをし始めた事に端を発している。
「ねぇ、オルフェ!ハディスは走っていったのよね?まだ着いてないんだけどっ!」
「赤いのも、人の
「そうよねっ、そうなんだけど、分かってるんだけど!」
視線の先には、開いた窓から反らせた背中がはみ出して、今にも落ちそうなポリンドの姿がある。事は一刻を争うのだ。
そして目の前には、落ち着きなく、どこかもどかしげに、けれど苛立たしさを隠しきれないジェットコースターも顔負けの上下動で飛び回る青龍の姿。魔力の化身は、正しくその主の危機を感じているんだろう。
ただ、滅茶苦茶に飛び回る姿に、王城のあちこちから叫び声や悲鳴が上がってパニック映画を観るような状況になっている。さすが王城ともなると魔力持ちが多いんだなぁーなんて、現実逃避しそうになるけど、集まった緋色の小ネズミ達がピョンピョンと青龍の背に飛び移り始めたのを見て、ハッとする。
小ネズミたちは、揃って龍の頭を目指して移動し、小さな手で、顔回りを一生懸命に撫で始めたのだ。
「あなたたち、龍を宥めようとしているの!?」
けれど、サイズ差がありすぎて、青龍の動きには全く変化はみられない。ついに焦れたように頭の上から大ネズミが龍に飛び移る。
大ネズミも同じ様に、背を移動して龍の目蓋に手を伸ばしている様だけれど、やっぱりサイズ差があって、龍が微かに目を細める様子はあるものの、荒々しい動きに変化はない。
安全ベルトの無いジェットコースターと化した龍から小ネズミがポーンと放り出される。
「きゃっ‥‥!」
思わず悲鳴を上げかけるけれど、小ネズミはふわりと着地して、再び龍目掛けて突進する。
「ネズミーズは龍に触れられる‥‥魔力の化身、魔力の塊なら触れる?」
手のひらを見つめじっと力を込めると、じんわりと暖かな自分の魔力の気配が集まって、うっすら桜色に煌めき出すのが分かる。
これなら、出来るかも。ううん、きっと出来る!!
「桜の君‥‥――っっ!」
「なっ!?」
何をしようとしたのか、あまり考えたくないけど、オルフェンズがわたしに向かって伸ばしかけていた手を弾かれたように引く。と、同時に背筋を這い上がろうとしていたぞわぞわするオルフェンズの魔力が弾き飛ばされたのが分かった。
今わたしに隠遁をかけようとしてた――!?あっぶなかったぁー!
「オルフェ!緊急事態だからちょっと試してくるわ!」
告げなから、再び下降してきた青龍に向かって両腕を伸ばし、胴体の鱗の間に指をを差し込んでグッと力を入れる。
「触れた!!―――ああぁぁぁぁぁっっ!!」
そりゃそうだ。捕まったままだったら、龍が飛び上がれば、わたしの身体も掴んだ手に引っ張られて浮かび上がるよね。
ただ、手だけでつながるのはまずい!いくら太ってはいないはずと言っても肩が抜ける!
『ちぅ。』
ふと目を上げると、先に龍に飛び移っていた大ネズミの間延びしたカピバラ顔が、正面でこちらをじっと見ている。
「あなた‥‥大きな身体でよく振り落とされずに捕まっていられるわね、凄いわ!」
耳元で風がごうごうと音を立てて吹き荒ぶ。
カピバラこと緋色の大ネズミは四肢に力を入れてがっちりと龍につかまり、何か言いたげにわたしを見つめる。
「成程、そうね!」
魔力を身体全体の外側を包み込むように張り巡らせる。イメージは‥‥。
『ぢぢっ。』
「あー。なんだか嫌な予感がするわ。」
手元がちょっと硬そうなカピバラの毛並みっぽくなって見える。多分、魔力を形作るイメージを決める時に目の前の大ネズミを見たせいだ――ぁぁ。くぅっ、不本意だけど仕方ないわ。人命第一だものね!
そう自分に言い聞かせるわたしの姿は、魔力が見える人には、カピバラの着ぐるみパジャマを着たみたいになっていた。
全身に魔力を纏っているお陰で、龍の胴体には身体全体でつながることが出来るようになった。あとは、ネズミ達のように頭に移動して、この
大木を登るように全身で頭目指してガシガシ進んでいくと、ネズミーズがわたしを応援するように身体を振るわせ始め、そしてやおら発火した。
――何故に!?燃えてるの?アツく応援してくれてるの!?
龍には現実の火は燃え移らないし、わたしのことはネズミーズの方で避けてくれるので問題はない。
ならば、今は気にしない!!
「落ち着いて!ほら!!綺麗な龍さん。怖くない、大丈夫だから。一緒にポリンド講師を助けにいくわよ!」
馬の手綱を引くように、龍の左右の目の下から一本ずつ延びた長い髭をグイと引っ張り、驚いた龍が反応したところで声をかける。
「大丈夫!あなたが手伝ってくれたらポリンド講師は絶対に助けられるわ!!」
『おぉぉぉぉ‥‥‥‥ぉぅぅん』
応えるように龍が咆哮し、馬を操るようにその頭の上で両髭を引いて尖塔の窓まで龍を誘導することが出来たのだった。
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