第32話 その姿は何故か探偵ものか刑事ものの終盤で、犯人のトリックを暴いて行く主人公を彷彿させた。
無意識におかしなことに自ら顔を突っ込んだつもりは――ないよ。うん。今回は特に。
「宿に入ろうと思って扉に手を掛けようとしたら、ちょうど運悪く冒険者の大きな男の人が、その扉を跳ね飛ばして、背中から飛ばされて来たのよ。ほら、わたしは何もしていないわよ?巻き込まれただけなんですもの。」
「は?背中から飛んで来た?」
ヘリオスが、説明を求めるようにハディスの方を向く。ハディスは「うーん」と、考える素振りをしつつチロリとわたしに視線を向けるけど、何に困っているのか全く意味が分からない。むしろ早く説明してほしい。
「あのねー、セレネ嬢が丁度入ろうとしたタイミングで、中で喧嘩していた冒険者の一人が、相手に放り投げられたみたいだよ。『
「それは、本当に不運でしたね。――それで?お姉さまは如何にして無事だったのでしょう?怪我をするところだったと仰っていましたが、実際は無事で僕も安堵しましたけれど。」
ヘリオスがにっこりと笑って聞いてくるけど、目が笑ってない。ハディスは「やっぱりそこに気付いちゃったかー。」と頬を掻いている。
「え?だからこう、迫るモノを防ぐのにこう『きゃーっ』て、両手を出したら?飛んできた冒険者にかかる重力がなぜか急に逆向きに働き出して?こう、びよ――んと戻って行ったお陰でわたしは無事だったのよ。」
うちの天使が、何に怒っているのかがハッキリとは分からないけど、何となく雲行きがまずいことは察した。取り敢えず無難にやり過ごすことだけを考えなきゃ。と、必死で説明をするけれど、ヘリオスは不穏な笑みを引っ込めてはくれない。
「お姉さま?分かっていらっしゃるから、その部分は誤魔化されたのですよね?お姉さまはご自分で身を護られましたね?誰も見たことのない技を使って。」
ヘリオスが、どこか確信めいた表情でわたしを追い詰めるように次々に言葉を連ねる。その姿は何故か探偵ものか刑事ものの終盤で、犯人のトリックを暴いて行く主人公を彷彿させる。
「僕たちの所へ夜間だと言うのに危急の連絡とのことで『街に不可解な魔術を使う娘が現れた。大の男を細腕でいとも簡単に弾き飛ばすのは、ただの人間では有り得ない。もしかすると
「人型
「緊急連絡がこうも迅速に届くなんて、君たち本当にしっかりと街と公爵周辺の組織を動かしているんだねー。」
いくらなんでも愛らしさの欠片もない響きの『
えっ?ナニコレ、わたしとハディスへの反応の差が酷くない?!
「ハディス様?感心している場合ではありませんわよ!?わたし、生成扱いされてるんですけど?もぉぉ――っ、きっと衛兵を呼びに行ったあの従業員と宿の守衛?もしくは伝言を命じた
「異常事態が迅速に伝わる体制が作れているんだよ?組織も、人選も上手く出来ているってことじゃない。ヘリオス君の手腕が公爵領で証明されて、恩を売れたって事なんだから、良いことなんじゃないかなー?」
確かにそうだ。公爵に借りが出来たと思えば、この上なく良いことだ。けど、借りを作って貢献したのはヘリオスで、わたしは生成として街を現在進行形で騒がせているみたいだ。ナニこの落差。さらに落ち込むわ。
「宿屋に戻ったら『人型
「あり得ますね。と言うか、間違いなく行きますね。領主に伝わる程の異常事態ですから。拘束か、言葉が通じるようなら任意同行か。」
「言葉が通じるってナニ!?拘束も任意同行も捕まえられちゃうって事なんだけど?ってことは衛兵とかに武器でかかって来られるってことっ!?」
くっ‥‥武装した衛兵たちに取り囲まれるのは決定事項みたいね、ならどうやって対処しましょう。後の予定があるから逃げて街から離れることは出来ないし、話し合いにしても言い分を聞いてくれるかどうか怪しい上に、時間が掛かりそう。無実の証明なんて一番難しい奴じゃない!なら手っ取り早く無力化しちゃう‥‥?
「おい、小娘‥‥良からぬ事を考えてはいまいな?」
「失礼なこと言わないでください。合法的かつ迅速な制圧方法を考えていただけですわ。」
イシケナルの質問に答えたら、ヘリオスとハディスが「なにそれ?」と、揃って溜息を吐いた。その様子をじっと眺めていたイシケナルが、不意に目を三日月形に和める。ニヤニヤと効果音が付きそうな笑みに嫌な予感しか起きない。
「助けてやろうか?」
愉し気な声音に、わたしは思わず眉間に深く皴を刻んだ。
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