第27話 家族や馴染みの小父さんには、お見通しだったみたい‥‥。
いや、面影があるからだけじゃない。しょんぼりワンコショタ王子ってだけでも、乙女としては放っておけない。ましてや生徒会長ともなれば下級生の頼みを無下にする訳にはいかない。
色々悪い方に働いて、後悔に苛まれるわたし自身の不甲斐なさよ―――。
「そんな訳で、しばらく視界に入る正面や隣に立たないでいただけますか?ハディス様。」
「なんで!?ひどくない?言い掛かりだよねー!?」
「うるさいぞ、赤いの。」
帰路を急ぐ、狭い馬車の中。
いよいよ明日はカヒナシ郊外に、文化体育発表会用の資材を積んだ商隊が辿り着く。
そう、兼ねてからスバルと計画していたエウレアとカヒナシ間の調査・偵察兼、商隊のお出迎え出発の日となった。
父母には護衛ズを伴って、親友のスバル・エクリプスの所へ遊びに行くと説明したから、特に反対も無かった。場所を聞かれたら不味いなぁと、思っていたけど別段追求もなくあっさりと承諾されたから、日頃の良い子な行いが効いているのだろう。むふふん。
「やあセレネ、良く来てくれたね!」
馬車の扉を開けた途端、スバルの明るい声が出迎えてくれた。
学園からバンブリア邸へ帰宅して程なく、お泊り用の荷物一揃えを手にすぐさま馬車に乗り、エクリプス辺境伯の王都別邸にやって来た慌ただしさなのに、しっかり出迎えまでしてくれるなんてと、ほっこり気持ちが和む。門を潜ってすぐの広い石畳に白大理石の騎士像が並んだ広場には、既にスバルが手配していた戦闘冒険者達が集まっており、オルフェンズにエスコートされて馬車から降りたわたしには、ほっこりした気持ちが打ち消されるような訝しげな視線が集まった。
「身の程知らずが‥‥。」
呟き、わたしの視界を遮る様に立つオルフェンズのお陰で、スバルに挨拶も出来ない。
「オルフェっ、見えないわ。」
「暫しご辛抱を。」
言うや、周囲にゾクリとする刺すような剣呑な気配が満ちる。
「オルフェ!?ちょっ‥‥敵もいないのに殺気!?」
「少々露払いをさせていただきました。」
「セレネ‥‥済まない。実力重視で急ぎ人間を集めたせいで、礼儀のなっていない者が多数紛れ込んでいたみたいだ。この通り、謝罪する。悪かった。」
腰を深く折って頭を下げるスバルに、周囲の冒険者たちがざわりとどよめく。スバルは騎士爵ではあると同時にエクリプス辺境伯令嬢でもあるから、格下の男爵令嬢に頭を下げた事に対する驚きなのだろう。けどわたしたちは身分を超えた友人だと思っている。
「スバル、大丈夫よ気にしていないわ。顔を上げて?」
――って、頭を起こしたスバルの顔色悪っ!!え?何、体調不良なの?約束しちゃったから無理してる?
「ごめん、気付かなくって。体調悪かったんだね?」
「え?いや、体調はすごぶる良いんだが、直接向けられていない殺気であるにも関わらず、改めて君の護衛の実力を間近に感じて震えが止まらないんだ。無意識の反射みたいなものだから気にしないでくれ。」
きーにーすーるーわー!!
けど、スバルには殺気を当てないようにしてくれたみたいで良かった。それにしても、傍から見ているだけで震えが来ちゃうくらいなのね。わたしは殺気だなって気付きはするけど案外平気だ。慣れって怖いわ。
よくよく周囲に目を凝らすと、20人くらい集まった、筋骨隆々とした顔も厳つい戦闘冒険者たちの大半が、顔色を蒼白にして信じられない者でも見たかのような愕然とした視線を向けて来る。しかもそのうち数人は震えが治まらない様で、地面に膝をついている。
「オルフェ、彼ら戦闘冒険者は今回の調査偵察の手伝いと護衛をしてくれる味方なんだから、脅してはダメよ。」
「桜の君を侮り、牙をむこうとするような駄犬は、番犬には成り得ませんし、犬としても御側へ寄せる気は有りませんから、早々にお引き取りいただいた方が良いでしょう?それに貴女には私がいつまでも付いていますから。」
ふわりと優雅に左腕を外へ開き、右手を自身の胸に向けて軽く屈むカーテシーの姿勢を取るオルフェンズの姿は思わず息をのむほど美しい。それに「いつまでも付いている」なんてさらりと言うなんて、とんだ
「まぁ、彼らも仕事をして稼がなきゃならないんだし、あまり厳しくしないであげてね?わたしを侮るのは、こんなひらひらとしたワンピース姿のか弱い乙女なんだから仕方ないとは思うけど、自分で払拭できる自信はあるから程々にね?」
「烏合の衆に、桜の君の神々しいお姿を目にする機会を与えるなどもってのほかです。私がどうとでも致しますから、お任せください。」
浮かべられた薄い笑みが少々の猟奇を孕んでいる気がするよ?早まらないでほしいわー。
「自分で出来る事はちゃんと自分でするわよ。だからオルフェは普通の護衛みたいにどっしり構えていて?」
「うんうん、その辺はしっかり言っておいてねー。」
見えないところで気付かない内に暴走されると怖いので、取り敢えず念押しすると、すかさずハディスが遠い目をして同意を述べつつ、大きく頷く。ハディスが思い描いたのは過去のどんなオルフェンズのやらかしなのか見当もつかないけど、とにかく暴走だけはさせちゃいけないらしいことは分かった。
スバルが冒険者達にあれこれ指示を出してから速足でこちらへやって来る。
「じゃあ、早速だけれど今日の目的地のカヒナシへ出立するよ。領主館のある中央都市に宿をとってあるから、そこであと10人の冒険者と合流する手筈だよ。」
「わかったわ!じゃあ、馬車には帰ってもらって、わたしは―――。」
「お嬢様?カヒナシ行きは良いとして、何をしに行くおつもりなんですかい?」
馭者の小父さんが若干楽し気にこちらを見ている。まずい‥‥と、ギギギと油の切れた玩具のようにぎこちなく振り返る。
「まあ、エクリプス様と一緒に行かれるのを正直に報告されただけ良いでしょうかね。奥様の言っておられた通りすぎて参っちまいましたよ。セレネお嬢様に旦那様、奥様から伝言です。怪我にだけは気を付けるように、帰ったら報連相についてまた話し合いましょうねとの事です。」
家族や馴染みの小父さんには、お見通しだったみたい‥‥。
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