第25話 しかし まわりこまれてしまった!再び。

 それからの連日の授業時間では、ポリンドを避けた。そりゃあもう徹底的に避けた。

 姿が見えないように、見せないように。衣装や書き割り、小道具に大道具作り、ポスター制作などの裏方は鍛練場じゃないところで行う作業も多いので、そちらに回ったりして、鍛練場で行う演技指導に当たるポリンドと顔を合わせないように立ち回った。

 衣装デザインは、形がもう決まって材料の発注も済んでいるので、エウレアからカヒナシへ山脈を超えて抜けてくる商隊の荷を待たなければ、その先の製作には進めない。なので、他の裏方仕事を意欲的に手伝った。


 ―――結果。


「ちょっとぉ?子猫ちゃん。あんまりにもあからさまじゃなぁい?」


 不機嫌が隠れきっていない笑顔のポリンドに捕まった。


「ナニヲオッシャッテイルンデショウ?おほほ‥‥。」


 美人の凄み顔は迫力あるわぁ。と思っていたら、背後からにゅっと2本の腕が伸びて来て首の前でクロスし、そのままわたしの両肩をがしりと鷲掴んだ。これはあれだ‥‥スリーパーホールド再びね。


「オルフェ、近いわ。」

「桜の君は、誰の持ち物でもないと主張したつもりですが、ご不満でしたか?」

「銀のっ!?それはむしろ確保でしょ、もぉー!」


 わたしを掴んだオルフェの腰をハディスが両腕で抱えて引っ張る。

 スリーパーホールドから大きな蕪になったわ。わたしが蕪役ね。ポリンドがいい感じに呆気に取られてるから、このままここから逃げ出せないかしら。そーれ、がんばれー、わっしょーい!


「バンブリア生徒会長?何をしているのかな?」


 笑顔の形を取りながらも目が笑っていない王子が、ご学友を引き連れて話し掛けて来た。ギリムの視線が痛いわ。


「その3人に囲まれて無体を働かれていたわけでもない様だが、傍から見ると令嬢らしからぬ様子で、穏やかな雰囲気でもない。一体何をやっているんだ?」

「あー王子?ごきげんよう?」

「あぁ、機嫌は悪くないが、あまりに王立貴族学園の品位を貶めるようなふざけた真似をしていたのだったら、悪くならないでもないな。」


 王子がわたしの手を引いて、オルフェの拘束から引き離した。


「ふぅん?あんたまでそんな反応するなんて、なかなか楽しそうにやってるじゃない。デウスエクスが学園に入れた甲斐はあったみたい‥‥か?」


 王子に向かって「あんた」?それにまさか「デウスエクス」‥‥って、国王の名前、呼び捨てっ!?


、いい加減になさってください。演技の講師として父上の許しを得て学園へいらしたからには、演技指導の場を放り出して自分の欲求のまま一人のご令嬢に構うのは容認致しかねますね。学園生達はより良い未来を掴むために、この文化体育発表会に向けて取り組んでいるのに、それをただの潜入の口実にするのでしたら正式に抗議致します。」


 アポロニウス王子の笑みが黒いわ。けど学園生のために怒ってくれているのね、ちょっと見直しちゃった。それにしても、叔父上かぁー。


「だって、この子猫ちゃんが逃げるのが悪いでしょぉ。いくらこっちがちょーっと意地悪言ったにしたって、そこまで怒る様なこと?喜んでヤル気になるところじゃないのぉ?」

「ぽっと出のにセレネ嬢の事が理解できるわけないだろ!いい加減にしてよねー!」


 ハディスまで激おこだ。にしても王子の叔父さんに「お前」って言ったね?

 それでもって、アポロニウス王子がポリンド講師に「叔父上」呼びするってことは国王か王妃の弟ってことよね!?この場に王族一体何人いるのよ!えぇー。王族暇なの!?

 もぉ嫌だぁー。


「ハディス様、オルフェ、逃げるわよっ!」


 取り敢えずの精神的安寧を手に入れるため、わたしは逃げの一手を打った。


 しかし まわりこまれてしまった!


「バンブリア生徒会長、君たちが歴史学の課題でとても面白そうなことを調べていると報告を受けたんだが、同時に叔父上が君たちにとても失礼なことをしたとの噂も耳にした。もしそのせいで、何か思うところがあるのなら教えてはもらえないだろうか?」


 王子が笑顔で退路を断ってくれた。

 けど道理に合わないって云うか、妙なことを言われている気がする。


「叔父さんのことを甥である王子に相談するのも変な話ですし、講師が学園生に問題行動を取ったとしたなら相談先は学園ですから、王子が気に掛ける必要はありませんわ。気に掛けていただきありがとうございました。」


 失礼にならない様に、にっこりと微笑んで会話終了を試みたはずなのに さらに まわりこまれてしまった!


「あぁ、いや、言いかたがまずかった。そうじゃなく、副会長として‥‥いや、同窓生――いやそうじゃなくて。その、友人・として、力になれないだろうかと思って‥‥な。」


 あれ?自信満々な態度が常の王子にしては珍しくつっかえながら話すのね。

 と、視線を向けると、どことなく目元を血色良くした王子がこちらの返答を期待するかのようにじっと見詰めている。

 ハディスとオルフェから微かに鋭い気配と、舌打ちが聞こえて来た。


「へ?王子がわたしと友人ですか?」

「へぇ。」


 何故かポリンドの声音は楽しげだ。それとは正反対に、ハディスは不機嫌そうに眉根を寄せ、オルフェンズはひんやりとした笑みを浮かべた。

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