第2話 母と父の通常運行っぷりよ。
ヘリオスが、ミーノマロ邸で改革に着手し始めたことは、クロノグラフ学園長からテラス・バンブリアへの『恙無く執務研修に就いています。』との内容の手紙に置き換わって届けられた。
さすがに、公爵矯正なんて言葉は使えないだろうし、普段から政敵に気を張らなければならない公爵位の手紙は、配達員が運搬中に
ちなみに父と母には、ヘリオスが偶然外商中に知り合った公爵に能力を買われて、強引に連れ出されはしたものの、1か月間の研修を受けさせていただく事になった‥‥と伝えてある。
素材収集時の余計な一言が公爵を怒らせていたから、嫌がらせのため誘拐されたなんて、心臓に宜しくない事実は知らなくても良い。うん。
「うちの可愛いヘリオスを勝手に連れ出すなど、許せない奴だ。徹底的に叩き直してやれば良い。」
が、父テラスと母オウナはそんな嘘に浮かれるほどおめでたくもないし、特別な通信手段で直接ヘリオスとやり取りし、おおよその事情を把握している。テラスは鼻息荒く手紙を畳んだ。わたしの失言の件は伏せられている――はずだ。
『ぢぢっ』
緋色の小ネズミが、家族ブラス護衛ズと共に朝食の席を囲むわたしの足元で小さく鳴いて自己主張する。まあ、彼らとこちらは互いに触れる事が出来ないから仕方がないけど、見上げる仕草はかわいくていつ見ても癒される。
「今日も配達ありがとう!」
食卓の側にネズミ。みんなに見えていたなら、今頃は使用人たちが大騒ぎをしてただろうなぁ。
「セレネ、ニコニコして嬉しそうね。床を見ているってことは、ヘリオスからの連絡かしら?」
「そうみたいだよ、セレネの足元に小さなお客さんが見えるからねぇ。」
緋色のネズミたちは、大ネズミや、特別な色の魔力と同じく、一部の人間にしか見えていない。
これぞヘリオス直通の、特別な通信手段よ!
「ここに、お願いね。」
侍女に紙片を持ってきて貰い、足元へ置くとネズミがちょこんとその上に乗る。そして、全身をフルフル震わせて、ふわりと朱色の魔力に包まれたかと思った次の瞬間、紙片には見慣れたヘリオスの文字が出現した。
「ほんと、セレネ嬢はとんでもない事を思い付くよねー。」
隣の席に着いたハディスが驚きと呆れがない交ぜになった複雑な表情で、わたしとネズミを交互に見ているけど、この小ネズミを始めとして、あちこちに居る同じ色の緋色の小ネズミ達や大ネズミは、全部がハディスを
「沢山いるし、動きも早いし、障害物も関係ないみたいだから、連絡を取る手伝いをしてくれたら助かるなって、お願いしてみただけよ?この子たちが優秀で凄かったのよ?」
伝書バトみたいに、メモを届けられるかなー?と思ったら、なんと彼らはどんな理屈でか文字だけを運んでくれる。しかも、隣の領のヘリオスからの連絡は、鳥が飛ぶよりも早く届いているんじゃないかな。日の出、日の入りの時間で試したら、ほぼ同時中継で実況を現す文字が届いたし。
「それを思い付くのが凄いんだよ――。」
「桜の君の
「「セレネ、その小さなお友達のことは私達以外には誰にも言っちゃ駄目だからね。」」
「うん、やめてねー。利用、悪用を考える人はごまんといるからねー。僕も怖すぎて表に出せないよー。」
お父様、お母様が揃って念押ししてくる‥‥んもぉ、分かってるわよ。この子たちの能力の凄さは分かってるから!
この世界での伝達は、人力配達の他、良く馴らした動物に魔力を与えて操り・運ばせる配達、そして映像を記録できる魔道具を配達する方法だ。どれも障害物には弱いけれど、小ネズミたちにはその弱点はない。凄すぎるわ。
ハディスが軽やかな動作でわたしの足元に屈むと、文字の移った紙を優雅な仕草で持ち上げる。そう、ただ持つだけなのに、何故か上品なハディス。育ちの違いをまざまざと見せ付けられる気がして――もぉ、ほんと心臓に悪いから止めてほしい。
「なに?僕の顔に何かついてるかなー。」
「はい、お奇麗なお顔がついておりますね。」
からかう様に片眉を上げて言うから、ついムッとして言い返す。と、キョトンとして薄く頬を染めて視線を外された。照れたな?よし、勝った!
「それで、ヘリオスからの手紙には何が書いてあるんですか?みんなが揃う朝食の時間を狙って送って来たんですから、何か意図があるんですよね?」
「あ、うん。えっとね‥‥。」
まだ若干頬に色を残しながら、ヘリオスからの文字を追ったハディスの表情がスッと引きしまる。
「また魔物たちがざわついているみたいだ。森からは出ないけど、森の浅い部分での動きが見られるって。それと、商隊の前に魔物が現れる事が立て続けに3件あったみたいだ。どれも被害は無い些細な出来事だけれど、気掛かりなので一応伝えておくって。」
「そうね、ヒヤリハットの見過ごしは後の大事につながるものね。」
「
母と父の通常運行っぷりよ。
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