第41話 色々後回しにしたせいで、わたし今プチパニックよ。

 イシケナルの魅了に取り込まれるのは嫌だっ!と藻掻もがいていると、突然気持ち悪さが和らいだ。


「馬鹿が、気を抜くな!俺は継承者じゃない、いつまで手伝えるか分からん」

「すまんの、バンブリア生徒会長、私の力だけではどうにもならん、有望な人材が我が家門に集まるのは願ってもないことだが、他の継承者たちの不興を買うのはいただけん!そんな判断も出来んとは、自らの力に奢りすぎだ!!」


 ギリムが向かってくるイシケナルの魔力を押さえ、学園長が自らも魅了を発して相殺しようとしている。


「マイアロフ様、ありがとう!学園長――恐れ入ります?」


 なんでだろう、学園長には素直にお礼が言えない‥‥。他の継承者の関わりが無ければ、何をしても構わないと‥‥?やっぱ怖いよ!公爵家!!って言うか、って、えっとぉ?

 とにかく、今はこのイシケナルの紫色の魔力を押さえないと。うん、細かいことを考えるのは、ここを切り抜けてからで良いわ!


「お二人にまで助けていただけるなんて本当に嬉しいです!素晴らしいお力をお持ちの学園長や、実力者のマイアロフ様と並び立てるなんて、とっても素敵です!!こんな心強い事はありません!」


 一緒に頑張れて嬉しい!大切な人を護るための力をありがとう!暖かな気持ちよ届けー・と、言葉を重ねる。


「ほぅ?」


 学園長が小さく声を発し、ギリムが微かに目を見開いた。応援の効果があったのか、イシケナルの魔力の圧がぐんと弱まる。

 イシケナルも苦悶の表情を浮かべ、信じがたいものを見たようにカッと目を見開く。


「どうして、継承者たるこの私の力が押されるんだ?!」


 バチィッ!!


 何か、大きく物がはぜる音が響いて、辺り一面を覆い尽くす紫色と桜色の火花が混ざって飛び散った。


「なんでだ?!お爺様よりも、私の方がずっと強いはずなのに、何故掻き消されたんだ?」

「間違いなくそのはずだがの、今回はたまたま1人だけのお前に分が悪かったのだろ。」


 なんだか疲れたーと思ったら、オルフェンズに背中を支えられ、ヘリオスに片手を取られた。ハディスが、学園長とイシケナルに対面するように身体を割り込ませてくる。

 背中を向けたハディスの身体中を、濃い色の魔力が包み込む。膂力にしては、ずっと濃く綺麗な色で、何処かで見た色だなぁと思っていたら、頭の上の大ネズミが、自己主張する様にそわそわと身動みじろぎする気配が伝わってきた。

 そっか!緋色の大ネズミ!この色だ!


火鼠ひねずみかわごろもの継承者か?お前まで。」


 イシケナルが悔しげに小さく呟いただけだったけど、しっかり聞こえた!ハディスが神器の継承者ですって!?

 さっきはオルフェンズが蓬萊ほうらいの玉の枝の継承者だって、学園長が言ってたし、なんだか神器の継承者ぼろぼろ出過ぎじゃない!?色々後回しにしたせいで、わたし今プチパニックよ。


「なんで!!なんで今まで私が望んでもいないのに勝手に付いてきて、どんなに迷惑でもこっちの都合なんてお構い無く寄ってきて、いつも襲われる危険があって生きた心地もしないで、そんな力なのに、なんで欲しいものが手に入らない!不公平じゃないか!!うわぁぁ―――。」


 あ、こっちにもパニックの人がもう1人、こっちは癇癪かな?えぇ――。傍目も気にせず大号泣が始まっちゃった!

 呆気に取られていると、背後でヘリオスがため息をついたのが分かった。


「貴方が我が儘なのは、今まで貴方に惹かれた人間が、全て無条件に貴方の判断に従ったか、貴方を手に入れて思い通りにしようとしたかの極端な者達だったからでしょう。けど、貴方自身も惹かれてやって来た人間に考えさせたり、手を借りるような関係を作ってこなかった事にも問題があるのです。全てが強力な『魅了』のせいではありませんよ、きっと。ですから僕は貴方が部下との付き合い方を少しは改善できるように、貴方を矯正するために残ると言っていたではありませんか。姉に手を出さなければ。」


 ヘリオス?公爵にそこまで言っても良いのかしら?矯正って、子供が大人に言うセリフじゃない気がするわ。


「出来ればお母さまやお父様の部下になって体験するのがいいかもしれないですけど、貴方は公爵ですし、無理なのは分かっていますから、妥協案です。」


 鼻水を啜り、時折ひっくとしゃくりあげながらヘリオスを見るイシケナルは、わたしたちのお父様程のお歳かと思うのだけれど、我が儘で癇癪持ちな成熟しきっていない精神面を反映してか、年齢よりもずっと幼く見えるから不思議だ。


「けどお前も私に遣える気は無いと言ったではないか!」

「当たり前でしょ!僕にとっては、あなた自身にはお姉さまほどの魅力はありませんから!」

「けれど、残ると?」

「はい。お姉さまと、僕との未来のために。」


 なんだろう、弟の姉推しが強すぎて複雑だよ、お姉さまは?

 わたしの夢は入り婿になってうちのバンブリア商会を一緒に盛り立ててくれる人と結婚する事、ではあるけれど、それ以前に当主となったヘリオス家族を支える為にそうしたいと思っているんだからね?姉推しが強すぎるとお嫁さんが来てくれるかが心配になっちゃうよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る