第34話 ちゃんと聞かないとここから離れられないよ?
ヘリオスと共にミーノマロ邸に残りたいと言ったわたしの言葉は、当人であるヘリオスによって言葉を被せて否定されてしまった。しょんぼりしたわたしの頭をハディスがポンポンと撫でる。
「僕も上手くやっているから、ヘリオス君には僕が付いておくよ。君の所には銀のもいるし、何よりそいつが居るからね」
そう言いながらハディス様の視線は、わたしの頭の上に留まる。
そうだった、ハディスと入れ替わる様にこの大ネズミがやって来て、当然のように頭の上に居座ってしまったんだった!何でいつも定位置が頭の上なのかは分からない。後ろから付いて来るとか、肩の上とか、色んな選択肢がある中でなんでいつも頭の上!?
「ハディス様、この子と意思の疎通が図れるなら、是非、他の場所も検討するよう伝えていただけませんか?」
「あー。多分むり、かなー。僕の予想外の事ばっかりしてくれるんだよねー。僕の意識を汲んで動いてるはずなんだけどねぇ。」
ハディスはバツが悪そうに言いながら、困った様に眉を下げて頭を掻く。どうやら、大ネズミはハディスの望みを想定外の形で叶えようとするらしい。久々の垂れ眼の困惑顔に癒されつつ、そう言えば髪や瞳の色は違ってもハディスはハディスなんだなぁ、と改めて思う。
「ちなみにヘリオス、この衛士がハディス様って云う事には、いつ気付いたの?」
「何を仰っているんですか?こんな変装とも呼べないもの、一目見て分かるに決まっているではないですか。」
言外に分からない人がいるなんて信じられない、と云う言葉が隠されている気がして、わたしはむぐっと口をつぐむ。
「銀の。」
「残念、時間切れか。」
ハディスとオルフェンズが短く言葉を交わすとすぐに白銀の
「おや?新参者同士の珍しい組み合わせですね。こんな所で何の悪巧みでしょうか?」
「心外です。僕はあなたたちに勝手に連れて来られただけですよ?しかも公爵様からは客人として遇するように言われていますよね。公爵様直筆のこの念書が何よりの証です。貴方こそ、こんな所で油を売っていては大切な主の不興を買ってしまうのではないですか?僕はむしろ、公爵様からの部不相応な興味を失いたいくらいですけどね。」
意地の悪い歪んだ笑みを浮かべた執事に、上着の内ポケットからチラリと折り畳んだ紙片を見せて、つんと顎をそらして答えるヘリオスに、わたしは心の中で大きく声援を送る。
わたしの大切なヘリオスに、こんな嫌味な態度をとる奴なんて、言い負かしてやれー!
けど、念書ってナニ?公爵からの興味ってナニ??ヘリオス、あなたこそ何をやってるのかな?
「ぐうぅっ、イシケナル様からの
なんですって!!?寵なんて、
焦るわたしや、忌まわし気に奥歯を噛みしめてヘリオスを睨みつけた執事とは対照的に、ヘリオスは落ち着き払った様子で紙片を再び丁寧な手つきでポケットへ戻している。そしてわたしを白銀の紗に閉じ込めたオルフェンズは何の感想もなさそうな様子で、ただクロノグラフ学園長の待つ応接間へ戻ろうとわたしの手を引く。タイミング的には、そろそろイシケナルが婚約者候補のご令嬢と共に戻ってくる頃なのだろうけど、でも寵だのなんだのと言われるとヘリオスが心配すぎて、ちゃんと聞かないとここから離れられないよ?
「気持ちの悪いことを言わないでください。貴方達の間ではどうか知りませんが、僕は公爵様には指一本触れられてはいませんからね!?ただ魔力の使い方に興味を持たれているだけですよ。」
「同じことだ!イシケナル様はこれまで他人に興味を持たれたことなど無かったのに、あの方のお心に住み着く特定の者が現れてしまった‥‥。お前たち
執事が不意に言葉を詰まらせ、やがて油が切れた機械人形のようにぎぎぎ・と鈍い動きで首だけをこちらに向ける。すると、何故かわたしと執事の目が合った。
「くっ‥‥
「えぇっ!?見えてるの?」
執事の声が廊下に響き渡り、廊下の向こうから大勢の足音が響いて来る。ハディスは、わたしの背後にいるであろうオルフェンズに胡乱な視線を向けてから、困った様にこちらを見詰める。けれど、折角ヘリオスを護れる場所に入り込んでいるハディスの正体を知られるような事になってはいけないと、わたしは微かに首を左右に振る。
「ほう?騒がしいと思えば、妙な者が居るな。このミーノマロ邸に無断で侵入してただで済むとは思っていないだろうが、最期に話くらいは聞いてやろうか?」
イシケナルがご令嬢を伴って――いや、並んではいないし、
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