第33話 お姉さまは君の頑固さを再評価しておかなければならないみたいだ。
「何をやっているんですか?」
鋭く問う声を発して近付いて来た人影に、わたしは息を飲んだ。
険しい顔付きで、こちらを見据えて近付いて来たのは、
「ヘリオス?」
探る様にヘリオスの頭のてっぺんから爪先まで、視線を何度も行き来させるけれど、紫色の魔力は残滓すら見当たらない。
「お姉さま?そんなに観察なさるのは僕を疑っているからですね?それは失礼ではないですか。」
「だって、ヘリオスが連れ去られた場所に残ってたのは、ユリアンなんかと比較にならないくらい強い色だったのよ。あんなに強い魔力をぶつけられたらただじゃ済まないんじゃないの?」
心配のあまり、それでもヘリオスをじっと見てしまうのは仕方ないんじゃないかな、と思うのに、ヘリオスは心底不愉快そうに口をへの字に曲げて眉を吊り上げる。
なに!?ヘリオス、天使なあなたがまさかの反抗期なの!?
「お姉さま、ひとつ言っておきますが、僕が正気でいられるのはお姉さまへの恐怖心のせ‥‥――いえ、お姉さまのお陰でもあるんです。ですから、僕を鍛えたお姉さまにそんな風に疑われるのは本当に心外ですね。」
よく分からないが、いつも通り淡々と話すヘリオスが正気だということは分かった。
「なら、一緒に脱出しましょう!学園長も協力してくださっているの。」
「は?え?学園長?どうして、学園長が急に出てくるんですか?」
「学園長クロノグラフ・ミーノマロ氏はイシケナル公爵のお爺様なのよ、ちょうど学園でお話しする機会があったから、お願いしたの。」
「どうして急に学園長と話すような機会が出て来るんですか?お姉さま、何かあったんじゃないでしょうね。」
しまった!さすがヘリオスだわ。話の行間を読んで、話してもいないことに気付いちゃうなんて。
冷や汗タラタラなわたしに対し、大きなため息をついたヘリオスは、胡乱な視線を送って来る。
「お姉さま、僕が攫われてから、まだたったの3日しか経っていないんですよ?その短期間に何をやったら、学園長直々に会わなければならないような事態になるんですか?」
じりじりと詰め寄るヘリオスから、どこかの赤い髪の人みたいな
一通りわたしから事情聴取を済ませたヘリオスは、眉間に深く皺を刻んで大きくため息をつく。
「わかりました。僕が取り敢えずお姉さまに何かされたのではなく、公爵の意思によって滞在させられていることを公にするよう、要求します。と言うか、消息不明、無断欠席になるつもりは毛頭なかったので、我が家や学園に連絡するように要求していたはずなんですが‥‥あの男、本当に腹立たしい。」
うん、そこが疑問なんだよ?邸内とは言え自由に歩き回ってたり、要求をすることの出来る状態って、ヘリオスはどんな立場でここに留められているの?
「けど、それを聞いてますますここから出るわけにはいかなくなりました。折角骨折りいただいて恐縮ではありますが、僕は
「えっ!?ヘリオス!?どうして?」
出られるのに出ないなんてどう云うこと?ヘリオスさえ救出できたら、例え力関係で全く叶わない公爵家相手でも、周辺国にまで広がっているバンブリア商会網を駆使して国外へ逃げ切ることだって出来るのに。
けれどわたしをじっと見詰めるヘリオスは、真剣そのものな表情で、なんなら気遣わしげな色さえ見える。
「あのひねくれた引き籠り
「えぇっ!?公爵矯正のためって、まさかそんな理由でここに居るの?」
「だから僕もどうしたもんかと、ねー。そんな訳で取り敢えず一緒にここにいたんだけどさ。」
弟よ‥‥生来の利かん坊頑固なところが、まさか遥かに格上の家格の公爵に対してまで発揮されるとは思ってもみなかったよ。お姉さまは君の頑固さを再評価しておかなければならないみたいだ。
ヘリオスの
「ハディス様、もしハディス様の身の安全が保証されているのでしたら、ヘリオスを見てやっていただけませんか?本当なら、わたしがここに残りたいところなのですけれど――」
「駄目です。おそらくお姉さまは、秘密裏にここへ来られたのでしょう?なら、お姉さまを連れて来られた学園長に御迷惑がかかります。それに、あの我が儘公爵は、お姉さまを目の
言葉を被せてまで反対されてしまい、わたしはしおしおと黙るしかない。けど心配なんだよーと、口をモゴモゴさせていると、ハディスがクスリと笑って、わたしの頭をポンポン撫でた。
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