第30話 どきっ!お見合い大作戦。
もう待っていられない!ハディスに任せてはいたけれど、3日待った。そして音沙汰もない。
ミイラ取りがミイラになっている可能性だってある。
クロノグラフ学園長は、アポロニウス王子からの助力要請に対し、否の意思を表すように微かに首を左右に振ると、小さく溜息をつき、おもむろに口を開いた。
「王子からの依頼でも、それはできかねますな。バンブリア生徒会長の
「面と向かって罪を暴くことは出来なくとも、かの者の屋敷を探ることは出来るのではないか?」
「ハディス様からの連絡も何もないんです。喧嘩腰で訪問するつもりはありませんので、なんとかその方のお屋敷へ入る手助けをしていただけませんか?」
王子とわたしの2人がかりで説得すると、学園長は「秒で
イシケナル・ミーノマロはその特異な魔力の性質もあり、王都に最も近い領地を与えられている。王都から遠い領地で魅了を使い人を集められたのでは、国の在り方が崩れてしまうからだ。離れた場所で人を集められるよりも、王家の目の届く範囲でなら存在を許容することができるといったところだろう。
これは、代々魅了の魔力持ちを輩出するミーノマロ家に与えられた特権であり枷でもある。現に、王都から遠い地には別荘であっても邸宅を構えることは許されていない。
そのミーノマロ家の大きな門を、クロノグラフの所持を示す家紋入りの馬車がゆっくりと潜って行く。馬車止まりで出迎えた執事が、微かに不愉快そうな気配を醸し出していることにわざと気付かないふりをして、当主の祖父に当たるクロノグラフがゆったりとした動作で馬車の扉から姿を現す。
クロノグラフやその息子が当主であった頃には、彼等にこんな不躾な視線を向けるものなどいなかったが、今代の魅了の強さ故にいとも簡単にその座を取って代わられてしまった。クロノグラフとて、神器の継承者とされていた程の魅了の力の持ち主であったが、イシケナルは幼い頃よりその巨大すぎる力が本人の使用の意思に関わらず、常に漏れ出ている程の魔力の持ち主だったのだ。
遠い昔に捨てたはずの苦い思い出に軽く首を振って、クロノグラフが馬車の中へ右手を差し出すと、その手にきめ細やかな光沢を放つ絹のグローブに包まれた手が、上品な仕草で重ねられた。
馬車から降りて来たのは、顔を隠すように飾り紗付きの帽子を被った黒髪の女性だった。さらりとした生地で仕立てられたラベンダー色のワンピースドレスは露出が少なく、その女性の
けれど、最初からこの2人の来訪を苦々しく思っていた執事はその心中を隠しきれず、女性が馬車から地に足を付けるなり声を掛けた。
「一体どうなされたというのですか?こんな急な来訪など、今まで無かった様に思いますが。」
「先ぶれは出したはずだが、もしかしたら何か行き違いがあったかの?」
とぼけるクロノグラフに内心舌打ちをしながら執事が口を開く。
「そんなことはございません。確かに
「では問題なかろう?お前がここに居るのが連絡が間に合った何よりの証拠だ。あとは、そう、善は急げと言うしな?」
愉し気に、エスコートした女性に視線を送るクロノグラフに、執事はつい自分の視線が強くなることを止められない。
そう、今回クロノグラフが急な来訪を伝えてきたのはこの女性に大いに関わりがある。
『お前の婚約者にふさわしいご令嬢を見付けた。本日、かのご令嬢を伴って行くので待って居る様に。』
簡潔に言うと、そんな内容の手紙が届いたのが今朝だ。
この屋敷に居るものは、殆どがイシケナルに心酔しているものばかりだ。一部例外もいるようだが、そんなことは執事には関係ない。むしろ傍に寄ろうとするライバルが減り好ましいとさえ思える程だ。それなのに「婚約者」だなどと、降って湧いたような凶事としか思えなかった。
慣れた足取りで執事よりも先に、イシケナルの執務室を目指して進んで行くクロノグラフ。その後に、顔を
軽いノックとともに執務室の扉を開けると、イシケナルがぎょっと目を剥いて固まっている。
「お・お爺様、一体どうしたというのですか?」
「どうもなにも先ぶれの文に書いたとおりだ。お前にこのご令嬢を紹介しようと思って、お連れしたんだが、いささか早かっただろうか?」
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