閑話 嘘
4月1日に別サイトでアップしておりましたエイプリルフール企画閑話です。
本編から少し話が巻き戻って、アイリーシャのお見舞いに行く以前辺りの話となります。
お時間のあるときにどうぞ!
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王都中央神殿での騒ぎの後、無事日常を取り戻して再び学園生活を送るようになったある日の出来事。この頃は、馬車を降りて歩き出すとしばしばお人よし令息の声掛けに呼び止められてしまうことが多く、ついオルフェンズの魔力に頼ることが増えていた。オルフェンズが白銀色の気配を曖昧にする不思議な魔力を持っていると知り、そう言えば彼がふいに現れることが良くあったなぁ、と思いはしたけれどそこにあるのはただ「納得」であって、それ以外の感想は特に持っていなかったから、抵抗感はまるでなかったのだけれど。
学園へ向かう馬車の中、隣でふらふらと船を漕ぎだしたヘリオスの頭を、揺れないようにそっと引き寄せたわたしをじっと見詰めながら、向かい側に座ったオルフェンズが心地良いテノールの声を静かに響かせる。
「恐ろしいとか、気味が悪いなどと言う方がほとんどですよ。」
薄い笑みのまま表情をかえずにアイスブルーがわたしの瞳を凝視する。
反応を見ているのかな?けどホントに何とも思わなかったし、なんなら植え込みの陰から出てくると思って呼びかけていたけど、魔力で隠れられると知って、逆に抱いた感想が「あぁ、そっちの方がまだ現実的ね。」くらいだったし。
「そうなの?色々できて凄いなぁとは思ったけど。あ、でも急に出てこられたりしたら心臓に悪いから、そこはちょっと考えてね。」
確かに、ずっと隠れて付け回されていると気付いていれば怖いかもしれないけど、気付いていない状態で、特に害も無ければそれはいないも同じだと思う。現に、オルフェンズは何もしてこなかった訳だし。あぁ、卒業祝賀夜会で殺されそうになったのは、気配を隠す魔力とは関係ないからノーカンにしておくわね。
オルフェンズの口元から笑みが消えて、目を真ん丸に見開くと、その隣でハディスが苦笑する。
「セレネ嬢、もう少し警戒したらどうかなー。まぁ、そこが君の良いところでもあるんだけど、困ったもんだねー。」
「赤いの、余計なことを言う口はここか?」
いつどこから取り出したのか、わたしの方を見たまま、短剣の切っ先をハディスに向けている。
「オルフェ!刃物で悪ふざけしちゃ駄目よ。危ないじゃない。」
「ふざけていませんよ。私はいつも本気です。」
「銀の‥‥そっちの方が問題だろー。」
剣の鞘で短剣を押し返しながら、ハディスが唇を尖らせる。
大きな男の子同士の会話に和んでニコニコしているわたしにハディスは「絶対に何か勘違いしてるでしょー。」と呟きながらこちらに胡乱な視線を向け、オルフェンズはまた薄い笑みを浮かべる。
「少し、古い昔の魔法使いの話をしても良いでしょうか。」
思いもよらぬ言葉に目をぱちくりさせたのは、わたしだけではなく斜め向かいのハディスも同様だった。
「オルフェが?是非聞かせて!あなたとっても良い声だから、とっても楽しみだわ。」
前のめりで了承を伝えると、ハディスが苦笑する。しまった、うきうきを前面に出しすぎたわ。と、浮いた腰をそっと座席に落ち着けてこほんと咳ばらいをすると、オルフェンズが静かに話し出した。
「昔々あるところに、とても大きな魔力を持って生まれた赤ん坊がいました。その親は何も気付かないまま赤ん坊は成長し、幼子となり、言葉を理解して感情を制御できる少年となったある時、その親は急に穏やかに過ごしていたはすの少年が姿を消してしまうことに気付いたのです。少年は消えている間はお腹もすきません、眠くもなりません。だた自分の存在がひどく
オルフェンズの表情は変わらない。本当に、どこかにあった昔話を口に出しているだけの様だ。けれど、その内容は目の前の青年の状況に似すぎている。
「少年はやがて自分が在ることを確認するために、
最初、ハディスは「吟遊詩人オルフェンズ」と呼んでいたっけ。
「そして子供は自分を確かめる方法を変えました。朧げな世界に閉じこもっていても、時折強い魂の光を持った者が見えるのです、その者を追い、その命に手を掛けました。」
静かに語るその口調はやっぱり淡々としていて、事実をただ告げているだけのようにしか思えない。だからわたしもただそれを受け止めておくだけに留めよう。目の前の青年自身が同調も、非難も望んではいないのだろうから。それに、なにより今の話は「古い昔の魔法使いの話」なんだもの。
「銀の。」
「ただのお話、嘘ですよ。」
「不思議なお話をありがとう。オルフェ。わたしから一つ、お話の中の魔法使いさんに伝えたいことがあるのだけれど。」
そっとオルフェの手の上に自身の手を乗せ、隣のハディスの手も取ってその上に乗せる。わたしの手よりも随分大きなハディスの
「こうして、手を取り合えば自分以外の人の温かみが簡単に分かるわ。わたし達みたいに。伝えられたらいいのだけれど、お話だものね。」
にこりと笑うと護衛ズは微かに息を飲み、揃って静かに笑みを浮かべた。隣で眠っているはずのヘリオスが小さく身じろぎし、顔を伏せるがその瞬間、目頭に小さな滴が光っているのが見える。
「あなたは、嘘が下手ね。」
くすりと笑って、わたしは窓の方へ顔を向けてしまった
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