第八話 暗い笑み

 何度か部室に顔を出して、時間のある時はソファで本を読んだ。

 本の持ち帰りに関しては私物は置いていないから勝手にしろとのことだった。

 それからの部活生活は実に順調な物だった。

 最初のうちは、先輩の出て行けという気持ちが溢れるほどに籠った視線が痛かったが、それに負けずに通い続けているうちに先輩が嫌な顔をすることは無くなった。

 多分僕が大人しくしくしていたから、邪魔にならないと分かって興味が無くなったんだろう。

 そうして、部室に行って先輩と同じ空間で本を読むという一連の行動が、日常の一部になっていった。

 何か話をするわけでもないのに、人と同じ空間にいて自然と時間を過ごすことができるこなんて、今までに経験したことの無い新鮮なものだった。

しかし、

「何か。」

「いえ、何も。」

 おかしい。ついこの前まで、特になんの問題もなく、平和に過ごせていたのに、ここ数日間、部室で本を読んでいる最中、ふと気がつくと先輩がこちらを見ている。

  たまたま目が合うというくらいのものならば、ただの思春期を拗らせた高校生男子の勘違いで済ませることもできたであろう。だが違う。

 ただ見ているだけではない、凝視しているだ。

 こちらをじっと見て、何か考え込むような素振りを見せたと思うと、何か小さな子供が悪巧みをしているかの様な。矛盾してしまうが、無邪気でありながら邪悪な笑みを見せるのだ。

 これが自分に向けられたものでなければ綺麗な笑顔に見惚れることもできたかも知れない。

 この笑みを見せる辻先輩は一体何を考えているのだろうか。

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