第七話 鋭い目
「この前入部した時、佐々木先生と一緒に顔合わせに来た天鬼です。ほぼ初めましてなので、覚えていないのも仕方ないと思います。これからよろしくお願いします」
顔を見た時は皮肉の一つでも言ってやろうかと思ったが、いざ話すとなると緊張してうまく言えなかった。
「あぁ、あの時の子か。本当に入部したんだ。入ってしまったのは仕方ない。けど、私の邪魔をしたらすぐに出て行ってもらう」
そう言った辻先輩の視線は鋭く、その整った顔立ちをより美しく見せた。
とは言っても言葉には僕に対する激しい拒否感が現れていて少し、胸の奥の方が締め付けられるような感覚になった。
まあ最初から何もかもが順調に進む人間関係なんて殆どない、言わば夢物語の様なものだ。だからそんなに気にしすぎても仕方ない。大人しくまた本の世界に集中することにしよう。
その後しばらく、黙々と時間を過ごして、下校の時間になった。
今日は先輩とはお世辞にも上手く関われたとは言えないが、全体の印象としては悪くはなかった。選んだ小説の内容も今まで触れてこなかった様なもので新鮮な体験ができた。
あの本に出てきた「ヌメヌメの乾パンで改札を突破した感じ」という表現がどうしても消化できずに少し声を出して笑ってしまった。本は持って帰っても良かったとは思うが、直接先生や先輩に確認していないので一応置いてきた。
翌日、休み時間にでも昨日の続きを読もうと思い立ち、部室に行く。しかしどうせなので持ち帰りが可能か先生に聞きに行くとしよう。どうせの労力で行ける構造の学校ではないが。
「失礼します、文学部の天鬼です。佐々木先生いらっしゃいますか」
文学部に入って良かったと思うことの一つに、職員室への入室時に文学部として名乗ることができるようになったことがある。
職員室を訪ねること自体がそもそも多くはないのだが、今までは学年とクラスをわざわざ言わなければならなかった。しかし、文学部という括りができたおかげでほんの少しだけ面倒が減った。
「お待たせ天鬼くん、どうかしたのかな」
今日の先生のベストは赤みがかった茶色だ。なんとなく日本史のイメージがある。特に意味はないが。
「文学部の部室にある本って借りて持ち帰っても大丈夫ですか。家でも読みたいんです」
「殆どのものは大丈夫だよ。でも、辻さんの私物かも知れないから、一応確認してみた方がいいかもね」
「わかりました、ありがとうございます。」
どうやら先輩と話す必要がありそうだ。だがそんなに急ぐことでもない。また部室で会ったら聞いてみることにしよう。
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