第44話 20区⑥

11区から20区に引っ越して経営しているなんて、まったく想像はしていなかった。アーセの親父さんは漁師だったことを思い出していた。その為、アーセの両親はあまり家に帰ってこなかった。


 11区から海に面している20区に来るだけでも1日以上はかかる為、博士がアーセの親父に頼まれて、博士の家で過ごすことも多かった。


「この辺の海だったら。何が釣れるんですか?」

「……大きなあゆかな」


 アンコの質問にアーセは少し考えて返事をした。マコが仕入れたであろう大きな鮎の段ボールを見ていた。アンコは少し頭をかしげながら、「そうですか」とだけ答えていた。


 晩ごはんはアーセのはからいもあり、みんなで食べることになった。外では先程まで薄く覆っていた雲は顔色を変えて真っ黒になっていた。しばらくすると、雨が建物を打ちつける音が聞こえ始めた。光を伴って雷も降り始めた。あの時、すぐに出発していたら大変な思いをしていただろう。



 晩ごはんには豪華な海鮮料理が並べられた。大きなテーブルには今日釣れたぶりの刺身、タイの煮つけ、鮎の塩焼き、そして炊き込みご飯が並んでいた。


 何から手を出していいか分らずに食卓をキョロキョロと見渡していたが、俺以外の3人は一心不乱いっしんふらんに食べ始めた。移動もあって疲れもピークに達していたのだろう。目の前にあるものから手に取り、食べていた。遅れるわけにはいかないと参戦した。


 初めはアーセとマコも俺たちの食べっぷりに驚いていたが、次第に面白くなってきたのか、ドンドン食えよとご飯のおかわりまで用意してくれた。しばらくすると俺たちはお腹いっぱいになって動けないほどだった。


 アーセは笑いながら言った。

「お前たちもここに住めよ!」


 冗談なのか本気なのか分からないトーンだったが、俺には本気で言っているように見えた。


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