第43話 20区⑤

メロンは驚き、2人ともそろって左手に持っていた竿さおを手放した。それをアンコが海に落ちまいと懸命に手を伸ばしてふせいだ。


「……あ。アーセ君だ!」

 メロンは声をあげ、アーセの元に駆け寄った。昔、10歳にも満たない頃から数年間、一緒に遊んでいた仲だった。特に俺はアーセとよく喧嘩をしていたし、近所に喧嘩をしにいっていた。


「何しているんだよ!」と驚きのあまり問いかけた。

「見たらわかるだろ。釣り堀りで釣りをしようと思ったんだが……」

 アーセは困惑していた。アーセの右手には竿を持っていた為、見ればわかるだろうと言っているようだった。


 それに加えて、せっかく釣りの準備万端で出てきたのに、中止だなと残念な表情にもみえた。

「たしか親の都合で違う町に引っ越したんだよね」

 オータムが昔の記憶を思い出して答えた。

「ああ……まあな。こんなところでお前らと会えるとは。もう一生会えないと思っていたからな」


 俺とアーセの会話を聞いて、メロンとアンコはクスクス笑っていた。

「なんで笑っているのかを聞くと「口調が似ている」と言っていた。青春時代にはアーセとよく2人でいた期間も長かったから仕方がない。


 俺はどちらかと言えば、一匹狼タイプで誰ともつるまなかった。アーセの場合もつるむのは好きではなかったが、俺と違って、アーセの周りには、自然と人が周りに集まっていた。


「アーセさんはマコさんとお付き合いしているのですか?」

 アンコは俺たちの友達と聞いて、安心しきっている様子だった。

「……いえ。私のオーナーなの」

 マコが質問に答えた。

「そうなんですね……」

 アンコは残念そうな表情を浮かべていた。その横で、アーセの表情はひきつっているように見えた。

 俺には恥ずかしそうにしているようにも見えた。


「知り合いですか?」

 マコはアーセに聞いていた。

 「幼馴染だ」

 そう答えると、アーセは俺とメロンを交互に目線を送り、マコに耳元で何かをささやいた。

「ああ! やっぱり付き合っているんだ。君たち」

 マコはわざと、俺たちに聞こえる声量で話した。俺とメロンは全力で否定した。

 


 ふと昔にアーセと遊んだことを思い出していた。アーセとは喧嘩友たちで、よく喧嘩の強い奴に挑みに行った。俺たちは負け知らず勝ち続けていた。ある時、いつもの帰り道にたこ焼きを食べ歩きながら、アーセは「じゃあな」と言った。それが別れの挨拶だった。

「じゃあな」等といつも別れの挨拶をしているから、本当の別れの挨拶とは区別できなかった。



「バカばっかりしていたよな!」

「まあな。お前が一番バカだったけどな、フィン!」

 相変わらずのアーセの態度だった。少しカチンときたが、昔と変わってないなと安心していたところもある。


「たしか。この間、博士さんの家で見せていただいた写真に写っていた人ですよね?」

 アンコはメロンに聞いていた。

「そうそう。あのオムライスを食べた日に見た写真に写っていた人よ!」

「アーセさん、ご飯食べますか?」


「……あれ。晩御飯までマコさんが作ってくれるんですね?」

「そういう契約なんだよ」

 アーセは苦笑いを浮かべていた。


「そうなんですね…… 」

 アンコはアーセとマコが付き合っていて欲しそうだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る