第42話 20区④

 まだ昼間なのに空はだんだんと灰色になってきた。日は沈まないが、空を覆う雲の割合が多くなってきている。打ちつける波の音も荒々あらあらしい。


  釣り堀は、海の上に設置されている。桟橋と大きなイカダの上から竿をなげて釣りを楽しむことができる。大きな波や風が吹いたら転落して海に落ちてしまうのでは、と思うほど自然の中に設置されていた。


 俺たち以外で釣りをしている人はいなかった。


「今日は釣りが終わったらどこかに行くの?」

「この釣りが終わったら、出発するつもりだぜ!」

 マコに向かって言った後に、天気予報でこれから嵐がくるとテレビで言っていたことを思い出した。


 釣り堀で釣りを始めたが、竿に何もかからない。竿を上下に振って確認しているが、まったく反応がなかった。隣にいるメロンとアンコは何匹か釣りあげ楽しそうに、はしゃいでいる。

 オータムは釣り堀の近くにある休憩所の椅子に座り、こちらを見ていた。


「今日はもうあまり外に出ないほうがいいかもよ」

「なぜですか?」

 空を飛んでいる鳥たちを指さしながら。

「鳥たちが注意しろと掛け合っているんだよね。大きな嵐がくるかもねほらね」

 辺りの状況を確認したオータムはこのまま車で夜道を運転するのは危険と決断した。


「マコ、この辺りで泊まるところないかな?」

 マコもオータムの賢明な判断と決断の速さに感心していた。

「ここは宿もやっているのよ。ちょうど部屋は空いていたわ。良かったら泊まっていきな」


 外は暗くなってきた。より一層、鳥は鳴き声を上げた。鳴き声を出す前に早く海から離れたらほうが良いのでは、と疑問に思っていた。

 疲れて、ベンチに座っていたが、横にメロンが座ってきた。「きっと1人で生きていても意味がないのよ」とつぶやいた。


 そもそも図書館に早く着かなければいけない理由はないが、あせる気持ちは積もっていた。そんな時、1人の男がこちらに近づいてきた。天気も荒れそうだし、今から釣りはできないぞと思っていた。


「……あれ。フィンじゃないか!」

 聞き覚えのある声が男から聞こえた。顔を声の方向に向けると、俺と同じくらいの年齢の男が立っていた。


「おお、久しぶり! メロン、フィン! 元気?」


 

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