第41話 20区③

「私はマコって言うの。あんた達はどこから来たの?」

 サバサバした口調でハッキリとしゃべる。トゲがある話し方ではなく、好感が持たれる話し方だ。

 

「11区から来たぜ!」

 正直に答えたが、横でオータムの深いため息が聞こえる。フィガロの時と同様に俺たちの情報はできるだけ、隠したかったのだろうが、我慢できなかった。


「へー。結構遠いね。この時代に旅行とは珍しいね」

「よく言われます。図書館まで行きたいんです」

「本好きなんだね。……それにしてもわざわざこんな遠い場所の図書館を選ぶなんてね」


 マコの言う通りだ。これまでの順路に図書館はいくつかある。なんなら俺たちが住んでいる11区にも図書館はある。

 「なんの為に?」と聞かれると困る。


 アンコがマコに質問を投げかけた。

「マコさんはよく海に出るんですか?」

「あまりでない……かな」

 マコは海を指さして曖昧に答えた。海の地平線を指しているようにみえた。


「海の向こうには何があるんですか」

 アンコはマコが指さした方を見て、質問した。小さい頃は、海の向こうには何があるかを、絵本を見ながら、よくメロンとオータムと答えのない疑問を語り合った。


 海の向こうには何があるのか。海の向こうまでは誰も行ったことがない。なぜなら、保安区の警備隊が海の周りを囲んでいるからだ。


 なぜ警備隊がいるのか。それは毎年サメが出て人を食べてしまうからだと俺たちは小さい頃から教育されていた。特に何も疑問を抱かなかった。国は一国しかなく、外から攻められることはない。そういうものなのだと自然と自分自身に言い聞かせた。  


「向こう側? 何もないよ。行こうとも考えたことないし」

 マコさんは笑って答えた。海の近くに住んでいるなら、一度は行きたいと思っても不思議ではないと感じたがそうでもないのか。


「あの水平線ってきれいですよね」

 アンコは目をキラキラさせながら、海の向こうの水平線をみて、「絵を描きたいな」と心をおどらせていた。


「ここから、どのくらいあると思う?」マコはアンコが見ている方を指さして質問した。

「地平線までですか? 分からないです」

「大体4.5キロなんだってさ」

「遠いようで、思ったより近いですね!」

 マコは大体なんでもそうだよと答えた。目で見ているだけだと大変だなと思っても、数字で計ってしまえば、実際はそんなもんよ。何も知識がないから怖く感じるのだと。


 海の上には何隻か白い船が浮いている。恐らく保安区の船だろう。せっかくの海の景色が、あの点々と並んでいる船のせいで邪魔だ。


 俺はマコがどうして行ったことがないのに、何もないと断定しているのか分らなかった。


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