第33話 3001年の自由とは?

「自由だよ。失ったんだ……」

「自由?」


 俺たちは同時に初めて聞く言葉のように繰り返した。思い返せば博士から同じようなことを言われていた気がした。『考えろ』博士の手紙に書かれていた言葉が俺の頭にこだました。 



「Game世界では職業から時間まですべてが自由だったと聞いている」


「らしいね」

 オータムは答え、「何をするのも自由だ」と付け加えた。


「今では国の言う通り働かないと生きていけない。しかもそれに逆らうとワクチンに混入されたトリガーの影響で命まで自由じゃない。悪い意味でこの世界に染まってしまったんだ」

「トリガー?」


  聞き慣れない単語なのでオウム返しをした。

「トリガーとはワクチンに混入された混入物のことだ。わしらはそう呼んでいる」


 なるほど、だから聞いたことがないのかとオータムは納得していた。トリガーの効力は今の世界でも続いているという博士の説は正しかったようだ。またフィガロがトリガーという言葉は昔の英語が語源だと教えてくれた。



「人はいつの時も自由を求める生き物、何かを支配したい生き物」

 オータムはお馴染みのあごに右手を添え、意味深いみしんつぶやいた。その際に座っていた席を立ち、部屋を観察するようにゆっくり回り始めた。


「その通りだ。若いのによく分かっておる。この町の闘技場に出ておるものは、ほどんどが国に対して反発している。常日頃つねひごろ、反乱の準備として闘技場で戦っておるようなものだ」

「ほとんどの人数ってどれくらいいるんですか?」

「この町の男は全てだ」

「全て! え、そんなに! すごい団結だぜ」

「そんなに数がいたら、どこからか話が漏れるんじゃないの?」

 メロンは単純な質問をぶつけた。


「まだ漏れておらん。時間の問題だろうがな……。闘技場の町であるマーヒーでは、実は貨幣がひそかに普及しておる。それで国の役人も買収している」

「……あれ? この世界では国から貨幣は、発行されていないはずだよね。どういうことなの? 捕まらないの?」

 メロンは続けて質問した。


「その通り。実際、この国の統率は取れていない。つまり、このままでは国は崩壊してしまう」

 確信じみた表情を浮かべ、フィガロは右手に着けていたリストバンドを外した。重りがついていたみたいで、地面に着いた際には鈍い音がした。フィガロの腕には、船の碇のマークが刻まれていた。たしかにアンコの件から秘密裏に貨幣を作っていることは知っていた。


「一部で貨幣が流通しているとは……」


 ゆっくりと部屋を歩き回っていたオータムは、本棚に置いてあった貨幣を見つけ、ジャラジャラと音を立てて手で混ぜていた。


 Game世界では当たり前にあったのだろうが、この世界においてはメダルゲームでしかコインを扱ったことがない。コインが物と交換できるなんて現実味がない。 ゲームのようだ。


「そう。ただ国も警察区を送ってきて、かなり危険な状態になってきた」

「でも、そんな状態だったら、国はなんでトリガーを使わないんですか?」


「それは闘技場が唯一の娯楽ごくらくになっているからだろうな。……それに、国に反旗をひるがえす勢力は力をつけている。あいつらもかつに手を出しづらい」


 ここで言うあいつらとは、国に対して言っているのだろう。


「なるほどですね」

「噂が広がってしまっては、国王も立場がないだろう」フィガロはより一層険けわしい顔をしていた。

「おい。戦士タンを呼んでくれ」


 俺は背後を振り返ると奥さんがいた。いると思わなかった俺は声を出して、大袈裟おおげさに驚いた。


 さっきまで、愛嬌あいきょうがよかった奥さんが無表情でうなずいた。旦那であるフィガロと僕たちの会話をすべて聞いていたのだろうか、事態を察知している様子だ。

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