第26話 通せんぼ
俺はひとりで出発する
なぜ博士が死んだのか。なぜ博士が手紙を残したのかを知りたかった。その為に動いているだけだ。あいつらの命も危険にさらされる可能性が高いと思っていた。
「あと何がいるんだ? ……行けばどうにかなるか!」
大きなカバンを持ってきて、1人で出発するための準備を始めた。元々、計画性がある
「たしかアンコの話では、
テレビの電源を入れて天気予報を見た。明日は大丈夫そうだが、明後日には嵐が来るそうだ。どこか安全な
今のテレビは、国が運営している国営チャンネルのみとなっている。
「そうだ。あいつらに手紙を書いておこう」
書いている途中で
できれば
「この家とも最後になるかもしれないな。あんまり運転すきじゃないんだよな。でも、進むしかないか。じゃあな、メロン、オータム、アンコ」
外に出ると旅人の木が風でなびいていた。扇のように広がる葉が特徴的な植物で、
葉はこの世界で最も大きな葉といわれ、明るい緑と黄色のトロピカルな色合をしている。夜だから、きれいな色は見えなかったが、それでもお別れを告げているように見えた。
次の日の早朝に出発しても良かったが、気持ちが切れないときに出発したかった。 道路は舗装されておらず、でこぼこ道が多い。
車を走らせて少し経った頃、目の前に人影がライトに照らされたので急ブレーキを踏んだ。
「うわ! 危ないな!」
「降りろ!」
人影は俺の車を強く叩き、運転席の窓も叩いた。窓ガラスが割れてしまうのではないかと思うほどだ。音に驚いて、恐縮してしまった。
「いきなりかよ。最悪だぜ……」
国からの指名手配は解けたはずなのに、何か違反をしてしまったのかと思いを巡らせていた。そいつらから外に出てくるように指示された。
こうなったらぶっ飛ばすしかないと決心した。数は少ないようにみえるから大丈夫だろう。夜道の山道の為、車のライトしか辺りは照らしておらず、田んぼにいる虫の音しか聞こえない。さすがに照明は設置されていない。
「そこに座れ!」
相手が体に触れた時が勝負だ。両手を頭に置きながら、膝を地面につけた。相手が手を出してきたときに隙が生まれる。その時がチャンスだ。
「フィンのバカ!」
聞き覚えのある言葉とビンタが飛んできた。予想外の声に体は反応できなかった。痛がっているともう一発飛んできたが、二発目は上手くかわせた。
「なんで勝手に行くの。明日出発でしょ?」
暗くてよく見えなかったが、声の主はメロンだった。座っている俺の目の前に仁王立ちしていた。
「何を考えているの! フィンは一人じゃダメって博士の手紙でも書いていたでしょ。連れてきなさいよ」
腰に手を置きながら、子供のしつけをしているかのように怒っていた。
「やっぱり。オータムの言った通りだったですね」
メロンの後ろからアンコが出てきた。アンコは旅行に行く準備を万全にしており、大きな荷物をバッグの中に入れていた。
「フィンは単純だからな」
オータムは微笑みながら、歩み寄ってきた。勝ち誇ったように見下しているようにさえ見える。怒ってはいないようだったが、
「かっこよくないよ」
メロンが蔑むような目で、まだ驚き立ち上がれていない俺を見ていた。
「いや。だって危な――」
「分かっているよ。分かっているけど私たちも同じだよ。小さい時に約束したでしょ」
俺は「そうだったな」と言ったが、内容を思い出せない。
「そういうこと。約束したしね」
オータムは座り込んでいる俺の肩をたたき、大きなカバンを何個も持ってきて、俺の横に置いた。重さのせいか、鈍い音と同時に地面に着いた時に発生した砂煙を吸わされることとなった。
「私は私自身のために」
アンコも荷物を俺の横に置いた。
「そうか。分かったぜ!」
連れて行かなかった理由は覚悟が俺ほどまでないのではないかと思っていたが、想像以上にあいつらにも覚悟がある事を理解した。これから先は後戻りできない状況になるだろうが、それでも三人を守るという覚悟をこの時にした。
「荷物をトランクに入れといてよ。罰として!」
そういうと3人は、俺と荷物を残して、車の中に入ってドアを閉めた。後部座席の窓が開いたかと思うと。
「荷物色々持ってきたから、どうせ携帯の充電器を入れ忘れているんでしょ。安心して」
走り始めた道中。
空に赤みがさしかかった頃、Game世界でも同じ景色が広がっていたのだろうか。どんな時代でも時間だけは皆に平等だと思っているが、それを妨げたオズワルドの罪は非常に重いなと感傷的になっていた。
「なんか旅行みたいで楽しいよね!」
「そうですね。こんなことできるなんて工場の頃から考えると夢のようです!」
「こらこら。旅行に来ているんじゃないぞ」
やはり、1人で出発すればよかったと後悔した。
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