第18話 ヒントはホトトギス

「何が食べたいんだい?」


 アンコにオータムが聞くと。

「お肉が食べたいです」

 アンコは遠慮気味えんりょぎみにうつむきながら答えた。


 その仕草を見て、メロンは「まかせて!」と意気込んだ。


 カミルの家から博士の家に向かう道中で、アンコにご飯をごちそうしようという話になった。その為、11区にある等価交換所で等価交換用に持っていたコーヒー豆と米で牛肉と栄養のある野菜を選んで交換した。


 それらの食材をフライパンでいため、白米と味噌汁みそしるをアンコの目の前に出した。お世辞にも、メロンの料理は上手くはないが、夢中で食べ始めて一瞬で完食した。食べている途中「うれしくて泣きそうです」と言いながら。



「ごちそうさまでした!」アンコは両手を合わして、感謝していた。

「きれいな花束ですね!」

「ああ。花束をおいてあげよう」


 アンコが食べ終わったのを見て、オータムはゆっくりと花束を瓶に移し添えた。博士が死んだことに実感はなかったが、博士がコーヒーをいつも飲んでいた机に置かれた花瓶を見たら、本当にいなくなったのだと実感した。


「博士はここで倒れていたんだよな……」

「死因はなんだったんですか?」

 アンコは聞きにくそうに質問し、オータムが静かに答えた。


心臓麻痺しんぞうまひだってさ」

「心臓麻痺? あの工場でもたまに人が心臓麻痺でなくなっていたんですよね」


 工場で経験したことを思い出したのか辛そうな表情を浮べていた。


「さっき料理している時に気付いたんだけど。博士の炊事場すいじばってこんなにきれいだっけ」


 メロンが炊事場を指さした。たしかに工場に向かう前にはきれいに整理されていなかったが、炊事場を見るときれいに食器を洗い、食器置き場に戻されている。



「え……たしかにそうだな」

「ほら。冷蔵庫にあったオレンジジュースのストックがなくなっている」


 どこか確認めいた行動をとるメロンに言われるように俺も確信に変わっていく。


「ほんとだね。ゴミ箱も空っぽだよ」

 オータムも博士の家を捜索し始めた。

「博士とつながっている人なんて、僕ら以外にいるかい、フィン?」


 俺ら以外には、カミルくらいしか思い当たらなかった。博士もまた無用な人との関りを嫌がっていた。


「変に人を知ってしまうと信用してしまうから好きではない」と博士はよく独り言のように話していたが、よく分からなかった。


 信用できる人は多くいた方がいいんじゃないかと聞くと「わしの場合は、もう信用できる人は出会いきっているよ」と話していた記憶がある。


「あ。そういえば。さっき外にあるホトトギスの花畑にこんな紙があったよ」


 メロンは小さな紙を机の上に出した。唐突に紙を出してきたので驚いた。なぜなら、博士からのダイニングメッセージを思い出したからだ。


 外を見たアンコが嬉しそうな顔をして話し出した。


「綺麗なホトトギスの花ですね。ホトトギスの花言葉って知っていますか?」

 もちろん、俺が知るはずもない。


「鳥――」

「秘めた思いですよ!」


「へー。物知りだな。……そんなことより、手紙を見してくれよ」

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