第33話 天帝の誤算

 天帝の視線の先に大剣。戦ったのは確かだろうな。


「神々とのやり取りの中には予言というものも含まれる。暫くは大丈夫だろうという話だったのだが」

「違っていたと」


 イレギュラーな何かが起きたっぽいな。否定しない辺り。


「ああ。海の底に眠る怪物が起きた。神が封印しているわけでもないし、管轄の外だからな。外れるのも当たり前であったかもしれん」


 海の怪物か。神がやっているわけじゃねえってことは……あれか。昔の人達がやったのか。確認しとこ。


「神が封印しているわけではなかったら……昔の人がやったんですか」

「そうだな。時間がかかってしまったが、そういった記述が見つかった」


 記録されてた奴だった。


「数百年も前だからな。劣化しておったし、文章の構造も異なっているから、解読には手間取った」


 だいぶ前だったらそりゃ……予想外だろうな。


「ま。細かいことを調べてる時間がなかったからな。討伐をした」


 討伐か。海の上で戦うしかないわけだけど。術がない状態では不可能だ。何かしらあるよな。


「あの。天帝様。どうやって討伐したわけなんですか。海の上で戦うって難易度が跳ね上がると思うのですが」


 あ。天帝様が笑ってる。笑う要素、ひとつもねえんだけど!?


「怪物相手にひとりでは戦わぬよ。強い友がおるからな」

「強い友ですか」

「ああ。名はヒムロレイヤ。氷の術を得意とする」


 氷か。何だろ。足場を作ったとかか?


「それで奴の動きを止めさせてもらって、その隙に大剣で斬ったというわけだ」


 違った。てかちょっと待て。


「動きを止めるだと……あなたはどうやって海の上で」

「ああ。飛行の術を使ったぞ。そんなに長く持たないが、トドメを刺せるぐらいなら問題ない」


 なるほど。ってことはあれか。小船で待機して、ダチが術で怪物を足止め。その後、飛行の術を使って、大剣でバッサリと。


「まあ怪物程度なら対処は簡単だった。封印で弱体化してたようだしな」


 弱体化してたからか、あっさりと討伐完了したのか。でもそれならイレギュラーって言うか? そうとは思えねえ。


「その先が問題だった。海の上に封印を解いた術師がおった」

「あ。犯人いたんですか」


 だろうなとは思ってた。


「ああ。まあその反応だと予想を当たってたみたいだな。政権の転覆を目論んでおり、その第一歩として怪物を目覚めさせたらしい。ま。弱体化は流石に奴も読めていなかったみたいだがな」


 あー期待してたのが使えなかった奴。もし海の怪物とやらが本来の力を保ったまんまだとしたら……怖えな。


「とはいえ、複数の手を持っていた。あの海の怪物は序章でしかなかった。どこかで保存していた、怪物どもを解き放った。しかも奴も戦えるからな。呪いの発動が上手かった。手練れを招集させたが、18人が戦死してしまった」


 あー海上の戦だと、犯人の方が有利だったか。


「地上戦が最も理想的だ。だが早めに仕留めねば、被害が大きくなる。だから私達は全力で戦ったよ。あれほど命がけの戦はもうないだろうな」


 未然に防げたけど、犠牲もあったって感じか。


「下手したら国が滅ぶ事態になっておった。神々からの知らせがなかったもんでまあ、私にとっては誤算だったよ。間違いなく」

「それでも対処出来たのは凄いと思います」


 俺だったら絶対テンパってた。


「なに。率いる者として、果たしただけのことだ。うん。こういうおふざけ無しの話はやはり苦手だ。ここからのんびりと楽しい話をしようではないか」


 この後も天帝様の話を聞いていく。コトの島で会ったあの兄妹、顔見知りだった。まあ元から神様と知り合いだし、そういった感じか。てか。神様の世界って案外世間狭かったりするのか? 怖くて聞けなかったけど。


「天帝様そろそろ」

「ん」


 カグヤさんが来て、終わりになった。まあ忙しいし、そういうもんだよな。


「エリアルよ。山奥のオウシュウに行くといい。面白い光景が見れるぞ?」


 と最後に天帝様が言ってたし、明日はそっちに行こう。

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