第32話 天帝と対面

 天帝の遣いの案内でヒューロが言う城みたいなところに来た。掘りに囲まれている。多分これは侵入者を入れさせない対策だろうな。そんでこの壁の複数の穴から攻撃するって寸法か。攻撃のためではない。防御するためにあるものだ。俺の推測が正しければ。


「昔は殿方がたくさんいて、あのようなお城で過ごされておりました」

「しかし星降る夜があって、なくなりました」


 殿方。つまり偉い人の住処だった。そりゃあんだけ空からヤバイの落ちてきたら、いくら頑丈でも、警備に優れていても、対応しようがねえよな。あ。ここから中に入るのか。色々と廊下が複雑だな。階段上ったりもするし。


 そんで頭がこんがらがった時に天帝様がいるところまで到着した。疲れてはない。多分そこまで時間経ってないはず。にしても城って豪華な感じするけど、やっぱ文化の違いなんだろうな。派手さが全くねえ。そりゃ金かけてるんだろうなってのは分かるんだけどよ。木の彫りなんて普通しねえし。絵描いてるとこあるし。


「天帝様。世界を救った勇者様をお連れしました」


 さらっと遣いの人が勇者って言ってたけど、どこで知ったんだろ。


「入れ」


 襖が開いた。前にいるのが天帝様とやらか。大体着物が当たり前だと思ってたけど、なんかワーラルフ帝国の軍服に近いんだよな。襟が立ってるきちりとした感じの。ビシッとやってるって感じの。若い鬼族の男。黒い髪をひとつに結んだ武人って印象が強い。けどこれは分かる。上に立つ者特有のが出てる。


「お呼びいただいて光栄です。天帝様」


メッチャ緊張する。旅の途中で何度か王族に会ったりしたけど、慣れるわけがねえ。精神がごりごりに持ってかれちまう。


「ああ。此度の呼びかけに応じてくれて感謝している。まさかここまで来るとは思わなかった。改めて歓迎の言葉を。星天諸島へようこそ。勇者よ」

「ありがとうございます。えっと。天帝様。私のことを勇者ではなく、エリアルと呼んでいただけると助かるのですが」


 役目が終わった今、勇者呼びはもう終わっているしな。それにみんながいたからこそ、邪神を討伐して、極東まで行けてるわけだし。


「それはすまんかった。以後、気を付けるとしよう」


 これがいわゆる王子様スマイルか。眩しい。そりゃモテる。


「カグヤ」


 あ。遣いの人、そういう名前なのか。


「茶の用意を」

「かしこまりました」


 行っちゃったな、カグヤって人。あれ。いつから座布団なんてあったっけ。


「まあゆっくりと話をしよう。座ってくれ」

「はい」


 崩して座る。ちょっとずつ賑やかになってくるのが分かる。


「ああ。周囲で散歩するのもいるからな。昔と違って、攻められることもない。皮肉なことにな」

「星降る夜でですか」


 静かに縦に頷いたってことは肯定か。前がどういうのかはさっぱりだけど、良くも悪くも変わっちまったのは事実みたいだな。


「ああ。色々と苦労したらしい。何もかも滅茶苦茶だったという記述がある。当時の天帝は不慣れながらも民たちを引っ張っていった」

「不慣れながらですか」


 あ。カグヤさんがお茶を持ってきた。さっと置いて、さっと帰って行った。さり気なくやるってすげーな。


「そうだ。昔の天帝は違っていた。天の神の末裔であるが故、通信手段のひとつでしかなかった」

「えーっと。それは要するに天帝様は神の子孫で、その神様とやり取りをする仕事を担っていたと」

「ああ」


 うっわー。そういうのもいるのか。神の末裔。立場としては神様寄りだったのが、星降る夜があってからは人を導く立場になったというわけか。


「昔はこういう贅沢なことをしてなかった。神の言葉を民に伝える役目でしかなかったと書かれている。まあ。今もやっておるがな」


 今も普通にやってた。神様とのやり取り。


「天帝を引き継いだ時、四季折々の行事に合わせ、神の言葉を伝えるだけだと思っていたよ。もちろん民の導きも忘れてはいない。常々問題は起こるからな。全ての島に目と耳を持ち、彼らに助言をくだすことを。まあ唯一誤算だったのは」


 目線が後ろにある大剣に行ったな。筋力がないと持つのでやっとな感じだ。誤算って何が起きたんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る