第31話 騒がしい目覚め

 ガエンの島に到着して次の日の朝。喧嘩の意味が分かった気がする。やたらと騒がしい朝だし。穏やかな感じじゃねえし。てか今気づいた。日が昇り始めたばっかだ。すり硝子の窓を少し開けて様子を見ておこう。ちょうど俺が寝てるとこ、通りの道に面してるっぽいし。


「待てこらああ!」

「逃がすんじゃねえぞ!」


 追いかけてるな。肌寒い朝によくもまあ、袖なし、しかも裸足でいられるよな。そんで追ってる奴の手に持ってるのって刀って奴だよな。物騒だな。で。人数は全部で10人か。年齢は俺とそこまで変わらない感じで性別は男と。髪の毛染めてるからメッチャカラフルだな。ピンク色とか緑色とか。


「この間の件、返さんとあかんからな!」


 追いかけてる方はそう言ってるけど……向こうはどうか。


「返り討ちにあったお前らが言うセリフか? ああ!?」


 逃げてた方の足、止まったな。そんで返り討ち。よくあの人達追いかけてたな!?


「やんのかごら!」

「上等だこの野郎!」


 さあてどうすっかな。ただの殴り合いならそう簡単に死なねえから止めねえけど……普通に刃物持ってるんだよな。加減失敗したら死人出るよな。いくら喧嘩でもあれはねえよ。あれは。よし。全部開けよう。


「誰だてめえは!」


 まあそうなるよな。知ってた。あれ。何人か、顔が青ざめてるような。


「兄貴、やめた方がええと思うわ」


 ピンク色の髪を逆立ててる男が怯えた感じで言ってる。ひどくね? そんな乱暴なこと、した記憶ねえんだけどな。


「何でだよ」

「だって彼奴、あの赤毛。火の神と戦ってたんや」


 あ。昨日のあれ、見てた人だったのか。あくまでも儀式で加減してると思うんだけどな。あの神様とやら。本気でやってたら、多分俺はあの世行きだったはずだろうし。


「火の神と戦ったやって? まさかそんなん冗談に決まっとるやろ」


 何この視線。さっきの喧嘩する気満々のあれは何だったんだよ。怯えてるんだけど。まあ事実を伝えた方がいいよな。多分。


「確かに昨日その火の神様とやら相手に戦ったけど」


 更に悪化したな。戦意喪失が伝わってくる。それだけなら良かったけど、恐怖心もあるよなこれ。こういうの経験したことねえから傷付く。知らねえ内にあの人ら逃げちゃってるし。落ち込む。マジで落ち込む。


 ちょっと経ってから朝ごはん。しょんぼり気味だからか、やっぱ食べる気力がいつもよりねえ。それでも食うけどな。生きるために必要だから。


「旅人さん。何かあったかね」


 宿のおばさんから質問されたから、粗方語ったよ。思い切り笑ってた。ひっでー。


「ああいうことをやったらそうなるわ。強者だということを認識すべきやないの?」


 見知らぬ眼鏡をかけたエルフっぽいような鬼っぽいようなおっさん、ある程度戦えるのは自覚してるんだよ。一応。騎士としてやってたわけだしな。でもな。もっと強い人は普通にいるんだよ。シェラ将軍とか。


「世の中、俺より強い人ごろごろいますよ」

「強いのに会ったことがある奴やったか。それはすまんかった。今日はどの辺に行くつもりなんや」


 そういえば……どこ行くとか決めてなかったな。早朝の出来事で落ち込んでたし。とりあえずメモを見て決めておこう。有名なところが色々あるっぽいしな。


「まだ決めてないですね。食べ終わったら考えますよ」

「そーかそーか」


 この近づいてくる足音は誰かが来たな。近くの人も食べに来る形式なのか?


「は?」


 おっさんがぽかんとしてる。他の皆も似た感じだ。ウサギ耳の着物を着た黒髪の女性って感じで特に目立つようなものはねえと思うんだけどな。あれ。一瞬目が合った。そんでこっちに来てるな。


「あなたがエリアル・アンバーか」


 何でか俺の名前を知ってた。


「はい。えっと……あなたは」


 いっだ! おっさんに耳引っ張られた! 結構力強い!


「何するんですか!?」

「天帝の遣いの者なんやで! 失礼のないようにせえへんと」


 天帝。支配者の名前だとザクロさんが言ってたな。そりゃ他の人達、ああいう反応するわけだ。確かに無礼なことしちゃってたかもしれねえ。マズイ。


「お気になさらず。事情を知らぬ者に強制したりはせぬ」


 助かった。


「心遣い感謝します。何故ここに来たのでしょうか」

「天帝様からお呼びです」


 めっちゃシンプルだった。そんでヤバイものだった。ただの旅人の俺が呼ばれるってどういうことだよ。

 

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