第30話 ザクロから色々と
というわけで。いや。何がというわけでなんだ。まあいいか。宿に戻って食事をとりながら、ザクロさんに色々と聞くことになった。お詫びということで、奢ってもらう事になったけど……悪いと思って、やりやがったな。顔には出てねえけど。
「で。なんで強引にやらせたわけですか?」
「まあ本来は踊り手がおったわけだが……体調崩してな。どうしようかと思ってたら、お前の存在を思い出したんだよ。で。術を使ってどうにか見つけて、連れて行ったわけさ」
術を使って。つまりこの人とは偶然出会ったわけじゃなかったってことか。つーか最初からやらせる気満々だったなこの野郎。
「そんな怖い顔するな。女にモテないぞ」
いや誰だってそうなるだろ。拒否権無しでやらされたんだぜ?
「ザクロさん、せめてどういったことをやらなあかんってのを伝えるべきやったと思うわ」
宿のおばさんが苦笑い。それな。何をやるかすら言ってなかったからな。直前に「火の神と戦えれば問題なし」って言われて、放り込まれて。そんでお陰で冷や汗かきながら、どうにかやり遂げた感じだったし。
「時間がなかったもんで」
うわ。反省してない奴だこれ。もういいや。これ以上責めたところで起きたことは変わらねえし。
「はあ」
「何故ため息を吐く」
ワザと言ってるだろそれ。
「分かっててそれを言いますか? それであれは何だったんですか」
「かなり昔から行われている儀式だ。乾燥しやすいのか、あるいは別の要因があるのか。それはよう分からぬが、火事になりやすい土地なのだよ」
あー木の家多いし、一旦燃えると結構広がるだろうな。色々と重なったら、最悪なケースもあるだろ。
「火の神なら起こすのも消すのも造作もないこと。だから定期的に互いに踊り、よろしく頼みますと伝えるのだ」
踊りで捧げる奴だったか。あれ戦ってるんじゃなくって、踊ってる扱いだったのかよ。武器じゃねえけど、鍬持たされたのってそういう。うん。理解できねえ。
「とはいえ、一度中止になったこともあったらしいがな。数年ぐらいだったか」
何となく分かった。数年単位で中止になったってなると、俺が知る限りあれしかねえ。
「……ひょっとして星降る夜ですか」
「ああ。なんだ。知っておったのか」
ビックリしてるって感じだ。他所の俺が知ってるとは思ってもなかったんだろうな。
「ええ。ウミヘビの島から知ってましたよ。語り部の爺さんから聞いてましたし」
「なるほどな。長生きしてる奴ならまだ語れるか。ま。復興してからまた始まったというわけさ。そうだ。火の神は本物だ。言葉通りな」
そういう設定かと思ったらマジモンだったか。危うく吹き出しそうになった。あっぶね。つかさり気なく言わないでくれ。そういうのは。
「そう簡単に神ってここに来ないのでは?」
少なくともヒューロじゃ、お供えものを出して、祭りごとしても、神様は来ていない。そう思う。マーリンも似たようなこと言ってたから、多分間違いないはず……だよな?
それに神様がいたっぽいアニヌゥスでさえ、今はあまり見かけないって話だった気がするんだよな。そんなあっさりと来るもんか普通は?
「神を降ろす術が豊富だからだろうよ。災害が多いからか。流行り病があったからか。ありとあらゆる神と通信を交わし、祈りを捧げたりしていたという記述があるぐらいだ。術が発達した今でも変わらずやっておる。生活に馴染んでおるからな。だからか普通に遊びに来る奴もおるという話もある」
遊びに来ちゃうのかよ。神様。
「ま。流石に神と名乗るだけのことがある。大体は私らでも分からぬよ」
「そーですか」
「そうだ。姿が見えるのは神が見える者だけだ。ああ。そこの者。酒を頼む。先ほどと同じ、出来立てホヤホヤのアカゾメ製のものだ。ああ。おおきに」
まあそう簡単に分かるわけねえよな。そんでさり気なく俺の前に酒を入れたものを置くんじゃねえ。
「さあ。今夜はのんびりとやろうではないか。火と喧嘩の島へようこそ」
歓迎してくれるのはありがたい。ありがたいけど、喧嘩って何?
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