第29話 火の祭り

 語り部の話を聞いた後、宿を探してどうにか泊まることに成功。やたらと騒がしいのは何でだ。というわけで2階から降りて、宿の人に聞いてみよう。夕食の支度をしてる人がいたからその人にするか。


「ああ。今日は火の祭りだからね。騒がしいのもそれが原因さ」


 火の祭りとやらが原因だったか。暖簾からちょっとだけ覗き見。小さい宿だから食事しながら、祭りを見れるのは有難い。まだ夕食の時間まで時間があることだし、ぶらぶらするのもありか。


「行ってくるんだね」


 バレてた。


「はい。少しだけ見に行ってきます」


 てなわけで散策開始。祭りってだけあって……語り部聞いた時より多い気がする。大通りに出ても、この狭さだもんなぁ。夕暮れだってのにやけに明るいのは空中に浮かぶ火。


「……は?」


 白い火が浮いていた。そりゃ屋根より遥か上にあるぜ? けどいくら何でも気にしないのはおかしい。


「心配するな。あれは特殊な火の術だ。火事にはならんよ」


 艶やかな女性がいると思ったら、やっぱザクロさんだった。


「そう聞いて安心しました。なんでザクロさんがここに」


「祭りだからに決まってるだろ」


 だよな。知ってた。手持ちを見てそんなこったろうと思ってた。林檎ぶっさしてるのと変な赤いお面してる時点で。


「満喫してますね」


「そりゃ祭りだからね。楽しまないと損だろ? 付いて来な。面白いものが見られるよ」


 面白いものか。なんだろ。嫌な予感だ。でも逆らえねえし、従うしかねえよな。手首掴まれちゃってるし。あれ。なんかザクロさんが意外そうだと言わんばかりの顔になってる。


「おや。抵抗しないのか」


 いやーだって。


「こんなとこでやったら、面倒ごとになりかねませんから」


 人がいる中で女の人とのトラブルって大体はろくでもない展開になる。まあこの人のことだから変なことは……言いそうだな。


「失礼なことを考えてなかったか」


 ギクリ。


「いえ」

「まあよい」


 引っ張られて、ザクロさんの目的地に到着。土で盛り上げた台って感じだな。武術の試合をやる時でも問題ないぐらいの広さ。その真ん中に人を模した火がある。周りに人が多いから……演技に近いものをやるって感じだろうな。


「お。ザクロさんじゃないっすか」


 猫の髭みたいなペイントをしてる小柄な女性が元気よく話しかけてきた。ザクロさんの知り合いっぽい。


「ああ。此奴ならどうだ。戦えるぞ」


 何言ってるんだ。この人は。


「マジっすか。それなら話が早いっす」


 笑顔で言ってるのは分かる。その前にひとつ、少しは説明してくれ。そう思いながら引きずられ、俺は……着いたその日に祭りの大事な部分をやることになっていた。なんでだろうな。鍬みたいなの持たされるし、その火の神と戦えれば問題なしって言われるしで。こっちとんちんかんなんだけど。てか。他所の俺がやって良いことじゃないと思う。マジで。


「うおっと」


 土の台にいる火の神とやらが襲い掛かって来る。どういう仕組みかさっぱりだけど、大きい鎌を持っている。鍬で受け止めるしかない。これで術が来たら……やべえな。


「くっ」


 ただでさえひとつひとつが重い攻撃だ。ゆっくりだからどうにか体勢を整えて受け止められるって感じだ。


「あっぶね!?」


 後ろに気を付けないと落ちそうだ。後ろに下がってばっかりだったからだろうな。高く跳んでも火傷しそうだし、素直に走って移動するしかない。


「あ」


 待っている。構えて待機してる。お前から攻撃してこいって言わんばかりだな。その誘いに乗るしか……ないんだろうな。めちゃくちゃな動きになっちまうけど仕方ねえ。さっきのお返しだ。撃ち込んでやる。3回で火の神様とやらがふらついている。ここで決める!


「ガキン!」


 どうにか受け止めた火の神様はここで尻もちをつく。あれ。火が消えてる。観客拍手しちゃってる。


「お疲れさーん」


 あー疲れた。腹減った。汗だくだ。水を浴びて体を冷やしたい。でもその前に笑っているザクロさんから色々と聞いておこう。

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