第26話 コトの島から出発
日が昇って来たか。起き上がって、1階に降りる。いつもより人が少なめだな。片手で数えるぐらいしか降りてねえし、外からの人なんてもっといねえ。時間を間違えたわけじゃねえしな。おばさんは普通に仕事してる。俺がいること、気付いたな。
「おはよーさん。ああ。人が少ないのはいつものことさ。夜遅くまでどんちゃ騒ぎしとるから」
だろうなと思ったよ。静かになって寝たけど、酒をガッツリ飲んでる奴はまだダウンしてるんだろうな。ヒューロでも似たようなのあったから分かる。重い男を部屋まで運んで介抱するとか。しかも酒に弱い奴に限って、飲んでたしな。よし。この話を思い出すのはやめよう。
「その様子だとあんたはそこまで飲んでなかったんやな」
「はい。今日が出発ですから」
「うん。懸命の判断や。前ここに来た人で乗り遅れた奴おったからな」
良かった。酒飲んでなくて正解だった。ご飯とか汁とかを受け取って、朝ごはんをいただく。泊った分の金を払って出発。本当に静かだな。数人しかいねえ。音なんて箒で掃除してるか、小鳥の鳴き声ぐらい。昨日の騒がしい町だったとは思えねえ。そこからは登って下って、港の方に向かう。
「乗るんやろ。入り入り」
船の人に言われたから乗っておこう。ガエンの島行き、結構人がいるな。確か偉い人が住んでる島なんだっけ。古くからずっと統治してたっていう。なんだっけな。メモを見ておこう。そうだ。天帝って名の。
「あんた旅人か」
考えるのは止めておこう。他の人に話しかけられたし。艶やかな女性って感じだな。肌寒くなってきたってのに袖なしの着物はすげえ。そんで普通の人ではないな。これは。構えるべきか。
「おっと。そんなに警戒しなくてもいいよ。まあこんだけ怪しまれるのは元職業柄だろう。名はザクロ。そなたは」
「エリアル・アンバー」
目を大きく開いたな。この人。んで口元笑ってやがる。
「そうか。かの主が言っていた大陸の旅人か」
「かの主」
「アマタノホウゲンの人間だよ。私は」
なるほど。だから普通に話しかけて、名前まで確認していたのか。ちょっかいを出した感じだろうな。多分だけど。
「ああ。それでですか」
船が動き始めたな。桜が咲き誇る島、コトの島と離れていく。ジンドリガッセンで大盛り上がりだったし、次来た時は静かに観光を楽しみたいところだな。何でかザクロさんが俺を見てるな。面白いか。男の俺を見て。
「出発したが……ガエンの島についてどれぐらい知っておる」
質問された。どれぐらい。調べた範囲だと天帝の住処、あと色々なものが見られるとか、そういう感じだよな。とりあえずこう答えておくか。
「偉い人が住んでるのは知ってます」
「ああ。天帝と呼ばれる支配者の名だ。千年以上前からずっとずっとおるよ。それ以外にも面白いものがある。飽きぬよ。あそこは」
ザクロさんがそう言った。面白いものか。こっちとしては全部ヒューロにないものばっかなんだよな。色々と見たい。
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