第25話 決勝戦が終わった夜
ジンドリガッセンが終了。そういうこともあってか、夜の町は大騒ぎ。屋台と宙に浮く灯りのお陰でいつもより明るい。グスター大陸のシュンガンと同レベルじゃねえかな。これ。
「シルバーヴォルクは別のとこで寝泊まりしてるんだったか」
「せやな。残念やなあ」
町の人が言ってる通り、優勝したとこのシルバーヴォルクは他のとこにいる。直接祝うなんてこと、出来ないからか、残念がってる人が多い。まあそんなの関係なく、普通に盛り上がってるけどな。この屋台、焼き鳥が置いてる。
「すみません。1本ください」
「はいよ」
小銭を出して、焼き鳥を購入。マジでどうやって清潔さ保ってんだろうな。店の人がごみを回収するとこもあれば、定期的に掃除してくれる人がいたりするけど、そういった感じのが一切ねえし。ゴミ箱だけじゃ無理だと思うから……考えても答え出そうにないし、この場でやることじゃねえから、やめとこ。
「おー! 赤毛の旅人!」
「ぐえ」
後ろから絡まれた。酒臭!
「飲み過ぎですよ」
宿の近くに住んでる髪ぼさぼさのおっさんだった。頬が赤いし、べろんべろんになってるな。
「ちょびっとしか飲んでねえぞ?」
酒弱の人だったか。どうすっかな。一旦、おっさんの住んでるとこまで運ぶしかねえよな。路上で寝るとかあまりよくねえし。騎士だったころを思い出すな。夜遅くまで開くなって言ってるのに、稼げるから開けてるとこあったから、取り締まったりしたし。まだ時間としては寝る時間じゃねえし、見回り隊もいるから問題はねえか。
「お。あんば殿」
ソウタさんとまた会った。人混みの中をすいすいと移動出来る技術、すげえ。見ずに体をほんの少しずらすだけ。そのはずだけど、ぶつからずに移動が出来る。俺も出来るけど、ソウタさんほどじゃねえからな。……もうちょっと鍛えるか?
「ソウタさん。お疲れ様です」
「それはこちらの台詞ですよ。酔っぱらいを介護するとは」
あー今、おっさんを背負ってるからな。目がなんか……哀れんでるようなよく分からない感じになってる。
「あとは私たちがやっておきますので、あんば殿は楽しんでください」
おっさんを軽々と持ち上げた。住むとこ知ってるのか?
「どこに住んでるか知ってます?」
「ええ。この人、毎年酔っぱらいますから、何度も家まで運んでるので覚えてますよ」
それなら安心か。てか。おっさん、毎年運ばれてたのかよ。
「分かりました。頼みます」
「承りました。それでは」
さあて。色々と見ていこう。祭りは始まったばかりだし。あーでも明日出発だからほどほどにしねえとな。酒は控えておこう。
「おー。エリアル君やないか」
御使いのカンタさんとコンコさんも来てたのか。お面被ってるし、りんご飴とやら持ってるし、その他諸々腕に吊るしたりしてる。めっちゃ楽しんでるなこの兄妹。美人タイプなのに、残念な要素が伝わってくるような気が。
「ふむふむ。残念美人やと思われとるな」
「当たり前じゃないですか。兄さま。私達の格好を見たら誰だってそう思いますよ」
そんでさりげなく、また心を読まないでくれ。
「何はともあれお久しぶりです」
ほんと。コンコさん、丁寧な人だ。変人要素あるけど。
「そうですね。数日ぶりですね」
「せや。エリアル、どうせやることないやろ。一緒に付き合ってくれへんか」
カンタさんから誘い……なんだけど、明日の朝出発なんだよな。勘だけど、ろくでもない感じ伝わってくる。
「ちょ。まだ僕ひと言も言ってへんのに、不審がられとるわ」
カンタさんは……ショックを受けてはいねえな。この人のことだから。
「そりゃまあ経験上、察知しますよ。かの有名なマーリン様のご友人でもありますし」
カンタさん、困った感じで頭を掻いてるな。
「うーん。そんな大したもんちゃうんやけどな。宿のとこで酒でも飲もかぐらいやったんやけど」
それなら問題ねえか。
「それで大丈夫ですよ」
「ほらな。あ。案内して欲しいわ」
完全に見越してやがった。まあいいけど。この人混み、抜けるの苦労しそう。そう思ったけど、御使いという立場だからか、道を開けてくれた。すげえや。
「ここです。俺が泊ってるとこ」
「ほな。お邪魔するでー」
宿のおばさん、びっくりしちゃってる。拠点地っぽいとこなら分かるけど、こういうとこに行くのは予想外って感じだろうな。
「ここです。俺が寝泊まりしてる部屋」
ふすまを開けて、俺が寝てるとこまで案内。おい待て。どっから取り出した。ロロが作った四次元ポケットよりもやばいことをやりやがってる。何で何もないとこから酒とかおつまみとか出してるわけだ。カンタさんはどすんと胡坐をかいて、ひとこと。
「さあて。色々と駄弁ろうや。ああ。僕の失恋話ばっかやけど」
俺聞き取り役かよ。まあいいけど。そう思ってたけど、ずーっと失恋系ばっかだった。話を強引に変えとくべきだったな。すっげえ後悔した。違う意味で。しかもなんか泣き上戸とやらだったし。ジンドリガッセンの後の祭りでやることじゃねえ。マーリンの話聞くことが出来ただけマシだけどさ。
「それでは失礼いたしました。お気を付けて」
そんなこんなで町中も静かになって、兄妹は部屋から出て行った。寝る準備して、明日に備えよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます