第24話 決勝戦。聞いたり手続きしたり。
シロイさんたちと会ってから3日後、ジンドリガッセンの決勝戦が始まった。やっぱりシロイさんたちが指導してるシルバーヴォルク。対戦相手はレンケの島とやらから来てるロトコって名前。流石にてっぺん争いの試合だからか、屋台が普通に出てるんだよな。昨日まではそういう準備の気配、一切なかったんだけど……夜中に準備してた奴だな。うーん。この人混みはやっぱ祭り特有のものだな。道が狭いから歩きづらい。こういう日にやらねえといけないことがあるから辛い。
「お。あんば殿」
「ソウタさん」
こんだけ人が多ければ、治安が悪くなる。ということもあってか、途中で見回り隊のソウタさんと遭遇した。無言でペコリと頭下げてる寡黙そうな奴は同僚だろうな。
「それでは。いだだだ。ヒヤ殿。引っ張らないで。伸びるではないか!」
流石に仕事中だったからか、寡黙そうなヒヤ殿(?)が袖引っ張ってどこかに行っちゃった。人が多いからすーぐ見失う。
「すみません。これください」
「あいよ」
キュウリの漬物をぶっ刺した棒を1本購入。ぼりぼりと食いながら、俺は歩いて行く。ピクルスと違うんだよな。酸っぱいけど。やり方が違えのか? あ。プツッて聞こえた。てことはそろそろ始まるのか。
『今日は最終日! イタダキに立つのはどちらか!』
実況の言うイタダキってあれか。頂点とかそういう意味でいいのか?
『シルバーヴォルク、ロトコ。どちらも本選初出場ながら、決勝まで辿り着いた猛者どもや! テラフミはどう思う?』
『いやこれは完全に予想外やったわ。シルバーヴォルクは上がって来るのは予想しとったけど、ロトコはしてへんかった』
ロトコが決勝戦に行くのは予想していなかったっぽいな。俺にとっちゃ、どこに違いがあるのかって感じだけど……よそから来たからだろうな。これ。
『ほほう。テラフミでさせ読み間違えるか』
『そりゃそうや。予選と違う戦法を使うとこあるし、限定的やけど入れ替えが許されておる。いくら情報があっても、表に出てへん場合は、いくら俺でも無理っちゅーわけや』
『ごもっともや。お。選手入場したで。いやーここまで統率のとれたとこは兵士でも見かけへんで』
そういえばシロイさんたち、ソウタさんとは戦えない理由は一騎打ちというものがないからだったよな。多勢対多勢。まるで国対国、いやそれどころか更に大きい枠として戦ってきたんじゃ? 考え過ぎか。過去とか知ってるわけじゃねえし。
『シロイさんの指導やろな』
『そうやな。試合が始まったで! シルバーヴォルクは3人がどこかに行ったな』
『改造した鉄砲を持っとる。見張りの役割を担いつつ、牽制を行うという形やな』
『あの距離でどうやって見るんやろな。改造したと言っても、撃てる距離が長くなった程度やろ?』
『遠くまで見通せるものがくっ付いとる。最新式シロイ型火縄鉄砲の考案者でもあるからな。シルバーヴォルクの指導者2人は。やからこういうとこでも持ち込むことが出来るんや』
おー流石は解説者。色々なことを知って……ちょっと待て。とんでもないこと言ってたよな。考案者だ?
『マジ?』
『マジや。本人に直接聞いたから間違いあらへん。本物の戦でも変わるし、ほんまこれからどうなることやら。この戦法はかなり有名になったからか、ロトコ側は慎重やな』
『ほんまや。勢いでやって来たりしてへんな』
どこに隠れてるか分からねえもんな。こんなところにゴミ捨て場あった。棒捨てとこ。
「恐ろしいな。シル……もうシルボルでええか」
「略し過ぎやでそれ。せやな。かなり研究しつくしとるし、予定外だろうと安定してやれとるしな」
戦術としては相当だとコトの人は認識してるっぽいな。本物の戦とは違うかもしれねえけど、活かせるところはあるってことか。
『おっと。シルバーヴォルクの銀が銃弾放った! ロトコの蒲池はどうにか避けて隠れたな』
『森という舞台だからこそ、救われたかもしれへんな』
あ。森だったのか。どっちも隠れることが出来るからな。ここからは整備された階段とか道とか使う形か。街から港に行く間の道とかそういうの。あれ。全然実況聞こえねえな。出た途端にシーンとしてる。あと熱気がねえな。この辺りは人がいねえから当たり前っちゃ当たり前だけど。うーん。見渡しても分からねえ。どういった魔術使ってるんだか。専門じゃねえし、考えても無駄か。とりあえず港に行って、ガエンの島行きの船の予約しとこ。おばさんから予約なしじゃ乗れないって言ってたことだし。
「おー。ガエンの島に行くんか。ほい。これ書き」
「あの……簡単な文字しか読み書き出来ないのですが」
「大陸から来たんか。ほいほい。読みにくいとこはやっとくわ」
港に到着。倉庫とか木の船とかが見える。ただ俺が降りたとこと違うんだよな。区別付かねえけど。そんで船着き場のおっさんから紙を受け取って、簡単な文字しか使えねえから、手伝ってもらいながら、船を乗る手続きをやる。外だってのに静かだ。海風がないから快適だ。
「やっぱここ静かやろ」
その途中、おっさんからそう言われた。確かに静かなんだよな。実況の声あるのかと思ったら、いつもどおりの感じだし。
「そうですね」
木の机の上にある紙、全部埋まった気がするな。と思ったら、おっさん普通に手で取ったな。
「仕事をするために出来たとこやからな。ああいう騒がしいのはいらないって話や。ほい。これで終わりや。明日にここに来といてや」
木のブレスレットを渡された。文字が刻んでる時点で分かった。魔道具の類だこれ。
「それがないと乗れへんからな。失くさんといてな」
「気を付けます」
とりあえず乗れるみたいだし、宿がある町に戻るとするか。実況の方はどうなってるかな。そう思いながら到着したわけなんだが。広場みたいなとこにわーやたらとでかい黒板がある。狼の絵と球みたいな感じの絵。組織のマークみたいなもんか。6つの陣地と名前みたいなのがある。どうやって用意したんだそれっていう突っ込みはあるけど野暮か。
「すみません。今はどういった状況でしょうか」
黒板に書きこんでる袖なしの着物に長袖を羽織ってる男に聞いてみた。
「ああ。赤毛の旅人か。戻って来たか。ロトコが優勢だな。3つ守っている状態で1つ陣地を奪っている。シルバーヴォルク側は攻めるのに時間をかけているみたいだからな。しばらくは4対2の状態になるだろうよ」
守り方を変えたのかもな。研究してるっぽいシルバーヴォルクの攻めがそこまで点数に届いていないってことになると。
「やり方を急遽変えましたか」
「恐らくな。実況の彼奴らもそう言ってるみたいだから間違いねえで。だがこれは戦略として脆い部分が見つかりやすい。即興で組み込んだらしいからな。ま。そんぐらいお互い分かってるだろうがな」
だろうな。決勝戦まで行くぐらいだ。戦法がどうこうは理解してる。
『1対1になったか。おっと。殴り合いや! ちょ。なにこれ。ババの動き、初めて見たで!?』
『シロイさんが前いたとこの格闘技術らしいで。色々なものが混ざってるから知らんのも無理はないわ。俺だって驚いとるで』
実況者が大興奮。初めて見る格闘技か。正直俺も見たいなぁ。
『ババがノダを投げた!? ジュウドウの技も混じっとるんかこれ!?』
『らしいな。良いとこどりを取った総合格闘技と言ったところやろうな。興味深いわ』
『テラフミ、本音漏れとる漏れ執る。ババが奪い返した!』
これで3対3か。均衡状態になったか。問題は時間だな。慣れない単位だから正確なとこまでは分からねえけど、もうそんなに悠長に攻めるような時間じゃねえ。
『もうそこまで時間は残されてない。どちらも攻め込むで! ただ妨害用の結界があるとこは無理や。突破するのにひと苦労やからな』
『確かに妨害用は時間かかるからな。ジンドリダイガッセン中でも1回か2回しか取れなかったし。うっわ。シルバーヴォルクの動き速いな!? 3人で攻め込む感じか。ロトコの方も3人で向かう感じか。いやこの位置やと奪い返す形になるんか。……で合ってるんやろな。テラフミ』
互いの近いところ、まあ自分のとこだったとこを奪い返す形だよな。人数の配分を間違えると痛い。
『ああ。それでええ。げ。シルバーヴォルク見えなくなった。一発で決める気か。こういうの不意打ちって奴やろ。そんな簡単に決まるもんか?』
『決まる可能性は低いやろな。神経を研ぎ澄まされた状態や。どんな小さい音だろうが拾うアンドウのことやし。それを知らないシルバーヴォルクやない。何か考えがってアンドウが反撃したな。うっわ!? 2人もまだおったんか! てかシルバーヴォルク、大胆に動いたな! 守りを薄めてまでやる気や』
おっと。解説のテラフミが慌ててるな。時間が無いからこそ、守りを捨てる判断をしたのか。
『2人を倒したアンドウだったが、それでも更に連続で戦闘となると辛いわ。体力的にも限界が来とる。アンドウが抑え込まれた! ウイが旗取得したで! シルバーヴォルク、陣地奪い返した!』
『やばいな。アンドウ以外、ロトコの味方は周囲におらへん。テツ、フウザキ、オオタが急いでるけど間に合わないで』
ひとつひとつの陣地の距離が相当ある。実況者が間に合わないと言うのも納得がいく。
『慌てるな慌てるな。最速の彼奴がおる。あの距離でもワシオなら駆けつけるで』
テラフミのいうワシオとやらが駆けつけられるっぽい。端のとこにいるのに間に合うのか。ジャッキーといい勝負じゃねえのか?
『ほんまや。普通に間に合ってる』
マジで間に合っていた。すげえな。
『ワシオがアンドウのとこに行った! 抑え込んでたスギオカは解除。アンドウが解放!』
実況者、雑だな!? お陰で分かるけどさ!
『そんで乱闘やな。何が起こるのか読みづらくなった。あとは時間との勝負や。おー取っ組み合いか。技を使おうとしとるけど、牽制しとる感じやな。2人を相手にしとるから、中々ロトコは旗のところに行かれへんな』
4対2だもんな。旗に触れることで陣地が変わるんだっけか。魔術の技術の塊だよな。ジンドリガッセンって。いや。今はそこを考える場面じゃねえか。取っ組み合いで時間が流れていくと、シルバーヴォルクが有利なのは確実。これを崩すにはどうするべきか……不意をつけるような何かをするしかねえ。
『この試合、道場で見たいわ』
テラフミ、本音漏れてる。
『分かるわ。おっと。アンドウが叫んだ!? びっくりするよな。分かるわ! でもそれが命とり! ほんのわずかな隙があれば、いけるんちゃうか!? あ! シルバーヴォルクが2人の足を抑えとる。地に伏してもどうにか守ろうとする意志は強い! 引きずっていくか? あるいはどかしていくか? さあどっちや!? もうおしまいになる!? はや! ごーよーさんにーいち。試合終了! シルバーヴォルクの優勝や!』
僅か数秒で濃い展開があったな。終わりとは思えない感じだった。ギリギリまでやるのが競技だからか? ガッツとか俺……出来るのか分からねえな。そんでシルバーヴォルクの優勝と。何が何だかさっぱりだったけど、どっちも凄かったのは理解した。さあて。閉会式みたいなの終わったら、どんちゃん騒ぎだろうし、楽しむとしようか。雰囲気にのまれるのも悪くねえ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます