第23話 シルバーヴォルクの指導者
ジンドリガッセン3日目。流石に慣れないとこで実況聞くのはきつかったから誰もいなさそうなところを探しにぶらぶらと歩く。大きい島だから、遠くに行けばそう簡単に顔見知りと会わないと思ってたら……見回り隊っていう仕事がどういったものかをうっかり忘れてたな。うん。
「お。あんば殿ではないですか?」
宿から歩いて1時間。階段の坂をのぼったりとか、狭い路地歩いたりとか、そうやってオレンジ色の葉っぱがある木の下でのんびり。でだ。そこで見回り隊のソウタとばったり会った。手元に弁当っぽいのがある。
「ソウタさん? 何故ここに」
「昼ご飯休憩ですよ」
少し早い気がするが、仕事によりけりだ。見回り隊という警備の類の仕事となると、昼はバラバラになる。騎士団にいたときもそうだったしな。
「ああ。なるほど」
「そういうあんば殿は散歩でここに?」
「そうですね」
ソウタが両手合わせて「いただきます」言って食い始めた。おにぎりとかそう言う奴だな。あれは。
「ほほ。へっほう見晴らしがいいとこでしてね。ははひこっちひ」
食いながら話すなよ。何言ってるのかはたまたま分かってるけどさ。
「確かに見晴らしいいですね」
ソウタの言った通り、町一望できるんだよな。塔があったり、寺みたいなのがあったりとかさ。それに秋という季節だからか、向こう側の山がオレンジ色に染まっている。
「はい。景色。さいこーです」
女性の声だよな。訛りがやたらと強い。後ろを見れば分かるか。
「あなたたちは」
着物を着てるけど、2人とも大陸側の人間だ。肌とか髪とか、そういうのを見て……ワーラルフの者って感じだな。白い肌に青眼金髪のコンビ。鍛えてる。あの感じは相当修羅場をくぐってる。
「初めまして。見回り隊の人」
ぺこりとお辞儀したな。ソウタ、すぐに分かったっぽいな。
「ああ。あなたたちはシルバーヴォルクの」
やっぱシルバーヴォルクのとこだった。俺もうっすらと分かってたけど。
「おー! そうです! わたしたち。シルバーヴォルクの指導官として務めてます!」
女性の人、テンションたっか!
「ええ。かなり話題になってますから、私でも知っております。故郷にもジンドリガッセンあるのですか?」
「いーえ。ないです。私、そして彼の故郷に似たようなものはありません。ですが。今までの経験を活かす事ぐらいは出来る。本当に思い出します。かつて軍に所属していたときも相当ハードでしたから」
グスターにちょっと似てるんだよな。シルバーといい。ハードといい。今はどうでもいいか。話を聞こう。
「軍に所属してたですか」
ソウタの反応がちょっとヤバイな。殺気放ってるし、うっきうきになってるし。刀って奴に触れちゃってるし。大会のこともあるからとめておこう。
「とりあえずソウタさん、戦うのはやめましょうね」
「何故分かったのですか」
むしろ分からないと思った方が謎だ!
「流石に私と彼が力を合わせても勝ち目ないですよ」
女性が苦笑いしてるな。男も似たような感じか。
「ああ。一騎打ちという考えがありませんからな。多勢と多勢のぶつかり合い。それが故郷周辺での戦でしたから」
「えー」
ソウタさんが子供みたいに駄々こね始めた。大丈夫かこれ。つーか。
「ジンドリガッセンに関わる人にそういう誘いをするのもどうかと思いますよ」
「あんば殿、それはあんまりですぅ」
ソウタさん。痛い痛い。ポカポカと胸を叩くな。シルバーヴォルクの2人、止める気ゼロだな!? 見守る感じの目じゃねえかそれ!
「シロイさん!」
白い色で動きやすい恰好の男が来たな。ハチマキって奴を頭に巻いている。狼の絵。何だろうなこれ。つーか。シロイさんって多分シルバーヴォルクの指導者2人のことだよな。俺の目の前にいる。
「準備運動と筋肉増強訓練が終わりました」
ビシッとしてるな。背筋伸びてるし、なんかよく分からないポーズ取ってるし。右手、額のとこに行ってるポーズなんて初めて見た。
「ごくろうさまです。作戦会議の準備はどうなっていますか」
ガチだ。めっちゃガチの会話だ。俺……聞いてもいいのか?
「はい。情報収集班、分析班がまとめたものが配られている最中です」
「そろそろ戻りましょうか。我が基地へ」
女性の台詞に男が頷いたな。俺らを見てる。
「ああ。彼らを待たせてはいけない。見回り隊のお方、それから旅のお方、機会があれば、またお会いしましょう」
行っちゃったな。シルバーヴォルクの指導者2人。あ。しまった。名前聞き忘れた。ソウタさんは知ってるだろうけど。
「確かシロイというのが苗字でして……名前の方も知ってはおるのですが、発音が面倒でしてな。なのでですね。あとで確認をするとよろしいですよ! それではご飯食べ終わりましたし、仕事に戻ります! またお会いしましょう!」
「ええ!?」
要するに自分で調べろってことじゃねえか! まあ大陸側の人間っぽいし、発音がしづらいから覚えられねえってとこもあるんだろうな。だからって笑顔で別れる前に言うセリフじゃねえ。で。その後、ジンドリガッセンに関する薄い冊子を購入して、宿でゴロゴロと寝転がりながら読んでみたんだよ。
「サンティアゴとプラスコーヴィヤでいいのかこれ」
出身がどこか知らねえから、本場の発音なんて分からねえし、そらの言葉の表記だから合ってるのか微妙だ。にしても……普通に大陸から移住する人もいるもんだな。マーリンみたいに短い期間のみって人が多いのかと思ってた。これはいいネタなのかもな。またシロイさんに会えたらいいな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます