第22話 実況を聞きながら

 ジンドリダイガッセンの第1回戦はユーキューと雪案内組合らしい。雪案内組合ってぜってえ北のとこにあるよな。そんで仕事場くさい。


「場所どこや?」


 誰かのおっさんの問いに俺とそこまで歳の変わらない男がペラペラと薄い本を捲ってるな。ジンドリガッセンに関する何かがあるってことか?


「えーっと。ユーキューはミコのとこで、雪案内組合はシロヤマのとこと」


 ミコの島って前いたとこだ。あそこ大きいし、行ったことのないとこの方が多いんだよな。多分俺が滞在したとこと違う地域のとこだろうな。きっと。シロヤマは初めて聞いたとこだし、行ったことのねえとこなのは間違いねえな。


「すみません。シロヤマとは一体」


 ということで早速ソウタに聞いてみた。


「ああ。シロヤマはここよりもだいぶ北にある島の名だ。冬になるととても寒くなるし、周りよりも多い雪が降ってくる」


 北にあると寒くなるもんな。そんで雪の量も半端ねえと。


「言い換えれば、夏だと涼しくなるから、偉いとこの避暑地として有名なんよ」


「避暑地ですか……」


 おっさんが付け加えていた。偉い奴が涼みに来るとこか。ヒューロだとそういう風習なかったし、想像つかねー。


「お偉いさんの生活を想像しても意味ないやろ」


 普通に突っ込まれた。そんでソウタは笑うな。


「所詮俺らは平民やで。突っ込まん方が身のためっちゅう話」


 何か言おうと思ったら、野太い笛の音が聞こえ始めた。


「おっと。そろそろ入場かい」


 入場の合図らしい。遠いところから攻め込むとか言ってたけど、図がないからどの辺にいるとか分からねえな。陣地を取り合うお遊びって話だから、見ないと分からねえとこ多いと思うけど、実況だけ聞いてる人はどうやって楽しんでるわけだ?


「これが今回の地図や。この辺からどう攻め込むのかが鍵やろうな」


 あ。普通に地図はあった。みんな地図のあるとこに集まってる。秋で涼しいはずなのに暑苦しい。


「これもこの時期のコトの日常だ。まあ直に慣れるさ」


「そうですね」


 後ろから見ても、文字読めない部分多いし、ソウタと一緒に聞くだけにしておこう。話聞いて何となく分かりそうだし。


『戦いの火蓋が切られたで!』


 試合が始まった。うっわ。めっちゃ静かだ。筆を用意して書きこむ気満々じゃねえか。


『どちらも3つの防衛拠点に1人ずつ配置。雪の方は1つだけ結界を貼っておるな。奥の真ん中辺りの。あれ。突破するのに骨が折れるんちゃう? てかこれ。規則的にどうなん? 普通あかんやろ!』


 確かにそれはいけない奴だ。結界ってことは術のことを指すだろうし。


『実は今回から追加されたんよ。2人とも確認はしとるやろ?』


 解説の人が呆れてる気がする。あーなるほど。どおりで変だと思ったら。


『知らん人やっておるやろ? そのためのボケやボケ!』


 まあ確かに運営側の実況者が知らないはずねえしな。ワザとああやって演じてくれるのはこっちとしてはありがてえ。


『ま。確かに知らん人の方が多いやろな。今回から防衛拠点に妨害用の結界を貼れるようになったんや。ただし1つの団体につき、1カ所だけ。運営の術師がやるからズルはないで』


『てことはユーキューにもあるんか。場所は地図だとど真ん中辺りやな。うっわ。泥か。違う意味でやりづらい仕様やな。色々違いあると思うねんけど、テラフミはどう考える?』


 どちらにしろ、体力の消耗は免れないか。制限時間内にどれだけ自分達の陣地が残って、かつ相手の陣地を占領出来るのかって話だから、最悪避けても問題はねえはず。


『せやな。体力ガッツリ使われるのは確実やで。安定性を狙うんなら、そこだけ控えるって手もある。全部陣地占領せえッちゅー話ちゃうからな』


 解説のテラフミも同じことを言っていた。


『なるほど。確実性とかを考慮すると結界のある陣地を避けると。おっと!? ユーキューが果敢に攻め込んだ! 手前の雪の陣地を最初の標的にしたで! 先に読んでいたのか、最初と違って3人で防衛をやっとる!』


 あーそっか。どこに陣地あるのか知らされていないんだっけ。手探りしながらってなると、まあそりゃ相手から近いとこを守るよな。


『とは言え、人数だけやとかなり差があるで。ユーキュー側は5人やし』


『うっわ雪のドウジ、ユーキュー2人吹き飛ばしおった。なんつー剛力! あれやと戻ってくるまで相当時間かかるで』


 どんな奴かは知らねえけど、2人も遠いとこまで飛ばせるのか。すげえな。


『見た目通りの力やな。鬼の血あるし、まあ出来るよな。これでどちらも3人になったし、読みづらくなったで。どれだけ手慣れているのか、あと先読みも鍵になりそうや』


 飛ばされた2人がどんぐらい戻ってくるかにもよるけど、暫くは3対3だしな。読みづらくなったのはマジっぽい。


『さあて。攻め手の雪のとこも5人か。ユーキューの方、防御手薄やけど大丈夫なんか?』


『分からへん。どっちも本選初やしな。とは言え、予選の記録見てるかぎり、元からああいう形なのは間違いあらへんな』


 そうなると1人1人強いのはユーキューってとこなのか。


「あんば殿。どうお考えで」


 びっくりした! ソウタから聞かれるなんて思わなかった!


「あ。えーっと。分かりません。規則全部頭に入れてるわけではないですし、まだ序盤ですので」


「確かにそうかもしれぬな。出方次第で変わるのがジントリガッセン。ま。のんびりといただくとしよう」


「ですね」


 そんな感じで暑苦しい実況とか盛り上がっているおっさんたちの声とか聴きながら、俺達はちまちまと甘い菓子と苦いお茶をもらった。どれぐらい経ったかは分からねえけど、


『見事に攻めまくりやな。互いに2つの陣地がある状態で? そんで雪側で大決戦ってとこか』


 大詰めになっていた。ユーキューが相当鍛えられているなという印象がある。しかも奪ったものを無理に守らずに即撤退。そのお陰で余力を残したまま、攻め込んで行っている。何度も攻められた雪側は大ピンチと。元から戦力差があったとこかもしれねえ。


『うわあ!? 雪案内組合はよー戻って! 攻められてるで! 全力で守ってや!』


『いやあれだけ戦ってたら体力的に持たんし、キツイやろな。読み間違えしたから距離的に相当やれる奴が間に合わん』


 すっげえ淡々と言ったな。解説者。でもまあ分かる。少しだけおっさんたちが書いた紙見たけど、駒の動かし方とかでもユーキューが勝っていた。こりゃ勝負あったな。


『冷静にもほどがあるで! テラフミ!』


『あのな。解説者やからこういうときも冷静にせなあかんのや。客観的に試合を解説するのが俺らの仕事やのに、熱くなってどうすんねん』


『もうちょっと熱くてもええと思うんやけどな! 1対2がいくつも出来とる! ただでさえ、ユーキューが有利な状況やのに! どう思う!?』


『かなりいいやり方やな。油断してへんって部分も好感度上がるわ』


『せやな! 手を緩まへんのも大事っちゅーわけか! ああ。守り手がなぎ倒されていく! 救護班がかけつけても、復活はきつそうやな! 旗が変わった! 試合終了! 3対2でユーキューが勝利や!』


 声だけだとマジで分からなかった。動きとか見れる機会があれば、いいんだけどな。でもそういうのって、金持ちじゃねえと無理だよな。仕方ねえか。旅人だし、こんなもんだと諦めて、ぶらぶらしながら聞いていこう。

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