第21話 陣取り大合戦開幕

 御使いの兄妹と会って2日後。ジンドリガッセンとやらが始まった。やたらと騒がしいおっさんの声が上空から聞こえてるから間違いねえ。


『さあさあ今日から星天が集っての大戦、ジンドリダイガッセンが始まるで!』


『解説はかつて10連覇を遂げたツキビカリにおったムラオカテラフミに来てもらってるで。よろしゅーな』


 解説付きはありがた……いや完全初心者の俺ではそれ以前の問題だったか。話は聞いてたけど、理解してるわけじゃねえしな。ぶらぶらと歩きながら聞いていこう。


『よろしゅうよろしゅう』


『テラフミ。今年はどこが有力やと思う?』


 普通はこういうの聞いてると仕事に集中できねえと思うけど、普通にやってるんだよな。周りのみんな。すげえ。


『そやな。確かシルバーヴォルクってとこやったかな。かなりええとこまで来ると思うで』


 俺の知らない国のとこから来たな。そらの言葉でもないし、ヒューロ語でもねえ。グスター共通語と似てるとこはあるけど、意味が合ってる保証なんてねえしな。


『どこや!? これ初出場やないの!?』


 実況にとっちゃ、初耳のとこだったっぽい。


『いや。何度か予選に出場しとるけど、本選まで行ったことないから知らんのも無理はないで。けどよそから来た夫婦の指導で一気に実力を上げて、出場を勝ち取ったっちゅーわけや!』


 弱かったところが強くなって出場って形だったのか。


『なーるほど。そういうこともあるんか。何か特徴的なものはあるんか』


 知らないとこってなると気になるよな。


『これがピカイチってのはあるで。ただの競技やない。本物の戦士が集まるって感じの圧があるんやって』


 うわ。夫婦どっちもガチで戦ってきた職種くさい。


『それ夫婦絶対只者じゃないやろ!? 会ったことはないんか!?』


 そりゃ実況者も只者じゃねえって感じ取れるよな。そんでマジな声で聞いてるし。


『残念ながらないな。本当は会って話してみたいとこやけど。おっと。そろそろ開会式が始まるで』


『せやな。俺達はしばらく静かにしとるな』


 開会式か。笛とか太鼓とかで選手たちが入って来てるっぽいのは分かる。音だけだから、合ってるかどうかは微妙だけどな。ずっと歩くのもあれだし、どっかで茶でも飲んどくか。


「お。あんば殿ではないか」


「見回り隊のソウタさん?」


 甘味処とやらに入ろうとしたら、偶然見回り隊のソウタと会った。今日は非番なのか、ゆったりめの格好してる。茶髪も結んでるわけじゃねえし。


「ぜひご一緒にお供してもよろしいか」


 なんか仕事の時と休みの時と喋りが違う。人によって切り替えてるのかもしれねえな。ご一緒にか。こっちはぶらついてるだけだし、問題ねえか。


「はい」


「それでは入ろうか。すまない! 空いてるだろうか!」


 のれんをくぐって……おお思ったよりも人が多いな!? そりゃソウタが確認するわけだ。


「ええ。奥の方へどうぞ!」


 こういう菓子を扱うとこって、女性が多い印象なんだけど、やけに男が多い気がするんだよな。気のせいか。


「ジンドリガッセンの時は大体こうなる。普段は女の方が多いのだぞ」


 俺がキョロキョロしてたから、そっこーでバレてた。


「ああ。やっぱそうなんですね」


 あとやっぱりジンドリガッセンが原因だった。


『これよりコトの島のダイミョウ、ゲンペイアキオミ様による言葉をお聞きください』


 足音が聞こえる。息を吸う音。


『厳しく、激しい予選を勝ち抜いた戦士たちよ。ひたすら戦え。ジンチを奪え。以上』


 いや。短いな!? もうちょっと言うことあるんじゃねえの!?


「あの……短すぎませんか?」


 小声で言ってみたら、ソウタが苦笑してた。


「アキオミ様は大体こうだ。言葉が短い」


「そうなんですね」


 周りの客も慣れた感じで聞いてるし、いつも通りっぽい。


「そういえば例の夫婦に会ったか?」


 誰のことだ。


「例の夫婦?」


「話を聞いておったのではないのか? 今回初出場のシルバーヴォルクのことを」


 ああ。そっちだったか。


「いえ。初めて聞きましたし」


「だろうな。私は会ったぞ」


 マジで? いや多分仕事で会ったのかもしれねえな。


「仕事でですか?」


「ああ。宿で出会った。大陸の顔立ちだった。更に細かく言うと、西側だろうな。青い瞳に金色の髪をしていた」


 確かに大陸出身の特徴だな。しかもブロッサイとかそっちくさい。


「お。お前は会ったのか。シンボクの夫婦を」


 隣の席から話しかけられた。布を頭に巻いているおっさん。シンボクってシルバーヴォルクでいいんだよな?


「ああ。グスター大陸の出身なのは間違いないだろうな」


「ほお? どういった奴や」


 うわー視線が集まって来る。やっぱ気になるんだろうな。強くなったとこの指導者って聞くと。答える側のソウタは……やたらと冷たい気がする。気のせいか。


「戦を知っておった。集団の戦いというものを熟知しておる。あの感じだと夫婦どちらも戦場に行ったことがあるだろうな」


 ガチで戦経験したことがある奴だった!


「得意としてるところが違うとはいえ、いつか手合わせ願いたいものだ」


 カチって音が鳴ったんだけど。ちょ。武器を持って、その怖い顔をするのはどうかと思うぜ。みんな引いちゃってるし。


「おっと。これは失礼した。強者を目の当たりにすると……つい興奮してしまう」


 穏やかな顔に戻った。ホッとした。どうなるかと思ってたし。


「その様子を見て分かった。あんたがジンドリガッセンに出ないのも納得や」


 1人の台詞にソウタは何も言い返す様子ゼロ。否定するつもりはねえってことか。


「否定せぬよ。熱が上がり過ぎると加減が効かぬからな。さて。そろそろ第1試合が始まるか。変更はないか?」


 さらりと怖いこと言いやがった。良かった。武器とか持って来てなくて。てか。もう試合に移るのか。はえー。おっさんが紙を広げて答えてくれる。


「ないで。予定通り進むはずや」


 聞いて試合を把握するなんて初めてなんだよな。しかも色々とやかましい感じで聞き取りづらいとこあるし……どこまで出来るか不安になってきた。

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