第11話 いざ頂上へ
俺の時計だと朝9時に出発。宿の人に、
「どこ行くんです?」
って聞かれたから、正直に答えたら……うん、普通に突っ込まれた。当たり前か。明らかに魔術使えない人間が登るなんて無謀にしか見えねえもんな。地図見ただけじゃ分からねえから、見かけた人に聞きながら、麓まで行ってるんだけどよ。みんな似たようなこと言ってた。
「大丈夫?」
って。心配そうに俺を見てた。荷物全部持ったままならきつかった。でも今は軽装だし、飲み物もあるし、変な事さえ起きなければ平気……だと思う。ヒューロじゃなくて星天諸島だから不安だけど。
「なんだこれ」
で。街から出て、麓っぽいとこに着いたわけなんだけど、この石の像はなんだろ。周りに蔦が浮いてる気がすんだよな。考えても何も始まらねえし、目の前の階段を登るとするか。
「はー……」
えーっとどんぐらい登ったんだっけ。すげえ高さだよな。5つ重なってる感じの塔よりも倍以上高いとこまで来ちゃった。流石に休もう。喉乾いた。あー生き返る。思ったより階段の幅広いし、急斜面って感じはしねえのは意外だった。それでもキツイけどな。
さあて。そろそろ上がろう。ほんと……周りいねえな。誰がこんな階段、作ったんだろうな。これが文化の違いって奴か?
「やっと着いた!」
足はまだ大丈夫。息がとぎれとぎれ。どうにかてっぺんまで登れた。あー疲れた。すげえ見晴らしだな。海がキラキラして見えるし、知らない島が見えてるし。建物の方を見よう。木で作られてるな。屋根があってとかその辺りは下と変わらなさそう。屋根の下には……複雑にやってることが分かる太い縄に蔦がぐるぐると。鈴を鳴らす感じか。その下に木の箱。ただの箱じゃなさそうだな。穴がある。どういう理由でああなってるんだ? って人の気配だ。
「いらっしゃい。登っちゃう人、久々に見たわ」
上は白で、下が赤の格好のえーっとリュウコツの島近くでも見たなこの格好。黒髪を切りそろえてる女性。箒を持ってるってことは掃除してたのか。
「良かったら茶でも飲んでく?」
すっげえ気さくな人だ。初対面、しかも明らかに他所から来た俺を誘うとか、すげえ。
「ええ。いただきます」
「付いてきて」
住居というか仕事場というか休憩所というか、何とも言えない部屋に入ったわけなんだけど、俺以外全員女性だし、入って良かったのかこれ?
「あの……男の俺が入って良かったのでしょうか」
こっそりと近くにいる人に聞いた。
「登って来たお客様には大体やってることですので。因みに前回は3カ月前でしたね」
あーそういう感じだったのか。あ。お茶が来た。黄緑色は初めて見たな。うーん。ボンボンじゃねえから、味の違いなんて分からねえ。でも美味い。
「凄い飲みっぷり。おかわりいります?」
「はい」
ちょっと落ち着いたし、周りを見ていこう。ぱっと見、ウミヘビの島のとこと大きい差はなさそう。畳と低いテーブルはあっちにもあったしな。
「初めまして異国の方。ここは山の神が住まうヤシロでございます。私達はここの従業員のようなものだと捉えてくだされば」
神様がいるとこだったのか。そんで彼女達はそのサポートと。何となく理解はした。
「大陸の方から来ました。エリアルと言います。本にここの事が載ってありましたので来ました」
「やっぱり」
前の人もそうだったっぽいな。何かやけに嬉しそうなのは気のせいか?
「宣伝って大事ですね」
「ええ」
宣伝して効果が出てきたって感じてるんだろうけど……それ以前の問題じゃね? こんな高いとこまで登れる奴数えるぐらいだろ。空気を読んで言わねえけど。
「大陸と言いますと……やはりシュンガン育ちなのでしょうか。それにしては顔立ちがだいぶ違うように見え……あいた」
1番小さい子が年上の子に叩かれてた。
「失礼よ。色々と」
「はーい。ごめんなさい」
「いえ。気にしないでください。確かに俺はそこ出身ではないですから」
「でもそれシュンガンの格好ですよね」
そう言えば今日着た服、シュンガンで買った奴だった。忘れてた。
「ええ。ちょっとだけ滞在してましたので」
あ。この感じ、質問攻めが来るな。
「あの色々と聞かせていただいても!」
やっぱり!
「答えられる範囲で……お願いします」
ここの言葉もだいぶ慣れてきたけど、出来ないとこは色々とあるからな。頭がパンクしないことを祈っておこう。どんと来い。
「すみません。色々と聞いてしまいまして」
「いえ」
質問してきたことをただひたすら返したわけなんだけど、これで通じてるか不安だった。良かった。一応分かってくれてた。えーっと時計の方は……そろそろ下っていくか。昼のこともあるし。
「そろそろ帰ります。お茶、ごちそうさまでした」
「あ。その前にちょっとやってもらいたいことが。付いてきてくださいな」
何だろう。やってもらいたいことって。おっとり目の黒髪の子に付いて行ったら分かるか。外に出たな。太い縄とか箱があるとこに戻ったな。箱を指してる。え。どうしろって。
「あのーどうしろと」
「お金を入れてください」
良い笑顔でそんなこと言うなよ。でもまあ維持するために金が要るってどこも同じだろうし。ここまで来たし。入れておこう。あ。そうだ。
「近道とか楽な道とかはありませんか?」
「ないです。階段一本道なんですよ」
うわー……マジか。配分を考えながら行くか。
「お世話になりました」
「こちらこそ。ご縁があれば、またお会いしましょう」
ぺこりと女の子がお辞儀。礼儀正しい子、多かったな。あれ。屋根に誰か……気のせいか。さあて。下って美味しいものでも食うか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます