第12話 夏の庭園

 コトの島に行くって言ったら、宿のおばさんたちが船の値段が高くなる前に行けって言われた。どうすっかな。もうちょっとゆっくりしていきてえんだけどな。ブラブラと涼しい木陰の道歩いてるけど、何も思いつかねえ。何だろ。やたらと大きいので囲ってるよな。途中から気付いたけど。人が入った。近づいてみるか。


「やあやあ。あんたも中に入るのか」


 門番っぽい杖をついてるおじいさんがそう言うってことは……俺も中に入れるのか。


「入るんだったらあっちで金を払うんだね」


 あっぶね。お金持ち歩いてて良かった。指してる方にはえーっと。小さい木の家みたいなのあるな。人が中にいる。あーそこで払えってことか。特に目的がないままブラブラしてただけだし、入ってみるか。


「ああ。まいどあり。そっから入りな」


 門を通って、いざ中に。すげえ緑だ。下も上も。下のこれは……しゃがんで見るか。苔だな。普通に暮らしてたら取っちゃうものだけど、こういう見る系って大事にするもんだな。何でか売店っぽいとこで苔が入った小瓶が置いてあるし。旅の途中だから買うつもりはねえんだけどな。割れ物って時点でアウトだし。


「こら駆け回らないの!」


 広い庭って感じだよな。ちびっこが走り回るのも無理はねえよ。こういう時って親は大変そうだ。


「賞品は逃げないんだから」


 何かやってるっぽいな。掲示板みたいなのにあった。売店っぽいとこの近くに。子供っぽい絵とよく分からない何か、数字を見てる限り、これ年齢制限ありの奴だ。参加できねえやつだな。この楽器の音、どこからだ。ここの地図を見てる限り、庭の真ん中でやってるっぽいな。そっちに行こう。


「ぶ!?」


 途中、虫っぽい何かが顔面に直撃してきた。焦った。それ以外は特にトラブルなく、到着して……流石に人がわんさかいるな。どうにか見れるだけマシか。木のステージに踊り子がいる。黒髪の女性か。うわーすげえめっちゃ飾り付けてる。踊りにくそうな恰好してる。そんで透けている布がふよふよ浮いてる。多分魔術でやってるな。両手に金ぴかの扇か。男の俺でも分かる。これ女の子、喜ぶ奴だ。勘だけど。


「おー彼が来たぞ」


 近くの人が楽しそうに言ったな。曲の雰囲気がガラッと変わった。勇ましい感じの。そんな感じだな。彼とやらがステージに登場。女性のと比べてすげえシンプル……だと思ったら、そうでもないっぽいな。刺繍とか。右手で持ってる木の剣はヒューロとは違う形だ。


「サダハル様素敵」

「分かるわ」


 あの男の人、サダハルって言うのか。女の人に人気っぽいな。戦闘を模した動きだ。女の人と戦ってる感じの。多分違うかもしれねえけど。ぶつかってすらねえし。どうやったらあんな動きになるんだろうな。どっちも倒れたな。相打ち的な何かか。拍手。これでおしまいか。


「相変わらずええ踊りしとるわ」

「せやなせやな」


 踊りの時間が終わって、周りの人はどこかに移動開始。まだ全部回ってるわけじゃねえし、俺も色々と行ってみようかな。うっわ。あっちすげえ人いる。ちょっとだけ見に行ってみるか。うっわ。デカい木の下で爆睡中してる人が何人かいる。あとはゴロゴロしてる人が大多数か。てか暑い時間帯だってのに……あれ不思議と涼しいな。木陰だけじゃ説明が付かねえけど。


 上見たら筒みたいなの吊るしてた。そっから何かが出てる。ハイファンシーで見た字だな。見たことのねえ植物の花が描いてある。青色系の。形はさっぱりだけど。でもこれで納得がした。魔道具を使って涼しくしてたんだな。さあて。答えが分かったし、次の所に行くか。服の裾引っ張られてる?


「かかあ。いなーい」


 薄茶色の髪の男の子だ。4歳とかそんなとこか。今にも泣きそうだな。うるうるなってるし。しゃがんで話を聞こう。


「お母さん、いないんですか?」


 丁寧な言葉しか喋れないのが辛い。固くてごめん。


「一緒に来たの。でもどっかに行っちゃった。うええええ!」


 ちびっ子、泣き始めちゃったよ! どうすっかな。


「おーい。そこの赤毛のあんちゃん」


 赤毛のあんちゃんって、俺のことか。すっげえくつろいでるおっさん、直接こっちに来て欲しいんだけどな。涼しいとこから離れたくないって気持ちは分からなくもねえけどさ。


「売店のとこに行きな。探してもらえるから」


 売店って……あそこか。連れて行ってそこにいる人に頼んでおこう。


「分かりました。助言ありがとうございます」


 そんな感じで売店まで戻って、その近くにいる従業員らしき人にその子の母さんを探してもらえるように頼んでおいた。時間かかるだろうし。ちょっと小腹に入れておこう。


「すみません。饅頭ください。あとお茶も」


 座って食えるとこで待機。一口サイズの茶色の饅頭4個と冷たい茶がすぐに来た。予想はしてたけど、やっぱ食い物に目が行くよな。


「来るまで食べます?」

「食べる!」


 元気が良いな。ただ……ちびっ子だし、1個までだな。そうだそうだ。


「すみませ」


 頼もうと思ったら、女性の人が笑顔で子供専用の大きさのコップ出してた。注文するとも限らねえと思うんだけどな?


「あと少しで涼しくなるとはいえ、まだ暑いですからね」

「そういうもんですか」


 ちびっ子にお茶を渡したら、ごくごく勢いよく飲んでた。やっぱ喉乾いてたのか。


「見つけました!」


 従業員の人が見つけてくれた。良かった。


「ジロー!」

「かかあ!」


 さあて。


「にい。ありがとー」


「どうもいたしまして」


 問題は解決したし、丁度食べ終わったし、行くとするか。

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