第27話⁂真由美の思惑!⁂



 真由美も幼い頃から兄や姉に連れられ近所の学の家に遊びに行っていた。

 だから、優しくて、物知りのイケメンお兄ちゃん学に、密かに思いを寄せていた。


 姉が学に恋をしている事は、態度で伝わり、言葉で気付かされ、諦めていたが、誠に残念なことに姉の死はショックではあったが、この溢れる思いを抑えきれなくなった真由美。


 {それなのに、駆け落ち同然で結婚しただと————————ッ!姉を苦しめて、今度は私を……あの女許せない!}


 そんな時に、美穂がインフルエンザの悪化で入院した。

 学の家がいくら隣町と言えども近所の為、姉の最期の言葉を何としても解明しようと思った真由美。

 {死に間際の姉の言葉の正体を何としても追求しよう}


 お嬢様育ちの真由美は家で花嫁修業の身の上で、時間が有り余っている。

 真由美の考える事、それは姉の死と学の事。


 インフルエンザと言ってもバカに出来ない。

 年間1万人もの人々が亡くなっている現状化。


 {姉の死亡原因が、病気とは分かっていても、あの姉の最期の言葉には何かが、隠れているに違いない。あれほど学に恋焦がれていた久美子だったが、意に反して学と大親友美穂が結婚した事に何か……原因があるのかもしれない?}


 姉思いの真由美はそう思い、図々しく美月ちゃんの子守代わりと銘打って、頻繫に立花家に居座るようになった。


 理由は、仲良し姉妹の姉久美子が、よく胸の痛みで苦しみ発作を起こしていたのだが、そんな大切な姉久美子が、若干26歳の若さで死に際に苦しみ悶えながらも、必死に最後の力を振り絞りながら、つぶやいていた言葉が耳から離れないのだ。


「美穂の裏切り者………あれだけ付き合っていない………ウウウウッくッ苦しい!………と言っておきながら……チャッカリ私を騙して………あぁ~っ息苦しい!………付き合っていたのね。許せない!」


 姉久美子は冠攣縮性狭心症(かんれんしゅくせいきょうしんしょう)の持病が悪化して入院先の病院で亡くなっていたのだが、姉の死に逝く最期の言葉に、許し難い疑念が残り、こうして図々しく居座った真由美。



 運が悪い事に、美穂はインフルエンザが重症化して肺炎を併発してしまっていた。

 それを良い事に、美月の子守役を買って出たのである。


 美穂の嫁ぎ先は『立花内科・小児科医院』を経営しているので、早速隣り棟に有る病棟の個室に入院した。

 本当は家で治療してもらいたかったが、インフルエンザという事で、大切な家族に移してはいけないと思い、たまたま個室が空いていたので、そこで治療に当たってもらった。


 そんな時に、近所に住む真由美ちゃんが、甲斐甲斐しく美月の世話をしてくれたのだった。

 無事退院して家に帰って来た美穂だったが、この数日間真由美ちゃんが家の事を一機にこなしてくれていたらしく、感謝感激の美穂。


「真由美ちゃんが、美月の面倒を見てくれて俺も安心して仕事が出来たよ」


「真由美ちゃんありがとうね!」


 こうしてすっかり、この家族の懐に飛び込んだ真由美は、最近は美穂とはどこに行くにも一緒なのだ。

 それだけ信頼を勝ち得たという事だ。


 病院の副院長として忙しい学と、幼稚園に通い出した美月を他所に、美穂と真由美は旅行に出掛けたり、ショッピングに出掛けたり、ランチをしたり。


 そんなある日、2人は最近巷で評判のイタリアンレストランに出掛けた。

 楽しい会話で盛り上がり、一息ついた頃に真由美が急に美穂に尋ねた。


「あのさ~?姉久美子の事で聞きたいのだけれども……急にこんな事言ったら気分を害すと思うのだけれども……死に間際に……姉久美子が言っていた言葉なのだけれども『美穂の裏切り者……あれだけ付き合っていない………ウウウウッくッ苦しい!………と言っておきながら……チャッカリ私を騙して………あぁ~っ息苦しい!………付き合っていたのね。許せない!』こう言って姉は亡くなったの……これどういう事?」


「あ~ら~?久美子そんなこと言っていたの?知らなかったわ。仕方ないのよ……あの時、久美子と私で学の彼女を突き止めようとしていたのよ……そんな時に、学に声掛けられて……それで付き合うようになったのよ……元々私と学は両思いだったの。そこで久美子に2人の仲を取り持って貰ったのだけど……両方に『脈が無いから諦めなさい』と言って取り次いでくれなかったの……そんな事情があったので……私も学もまた邪魔が入って、2人の関係が壊れるのが何よりも怖かったので……久美子と……距離を置く事にしたのよ。まさか久美子が、そんな風に思っていたなんて?」


「それって、まるで姉が一方的だったみたいじゃないの?姉はいつも言っていたわ。学のお母様がいつも、いつも『久美子ちゃんが学のお嫁さんになってくれたら、こんなに嬉しい事はない』ってね。だから姉も『お母様任せてください』って言っていたみたいよ………そして…『美穂の事を凄く反対していた』とも言っていたわ。美穂、あなたが悪いのよ」


「確かに私達は結婚を反対されていた………でも今は両親と仲が良いから……それから…学は、ちゃんと久美子に『そんな気はない!あくまでも友達の妹』と伝えてあると言っていたわよ………逆恨みされても?」


「ともかく………美穂さえ2人の間に現れなかったら、姉は学と結ばれて死ぬ事もなかったのよ。あなたのせいで姉が死んだのヨ!」


「真由美あんまりよ。酷すぎる!折角の楽しい食事が台無しよ」


 やがて………美穂に魔の手が忍び寄る。

 犯人は、意外な人物なのだ。

 それは……真由美ではない…………。






★冠攣縮性狭心症

【冠攣縮性狭心症かんれんしゅくせいきょうしんしょうとは、狭心症の1つです。

冠攣縮性狭心症は、心臓に栄養を送る血管である冠状動脈がけいれんを起こし、一時的に血管の内腔が狭くなってしまうことで発症します。明け方や夜中、就寝中や安静時に胸の痛みや圧迫感、息苦しさ、冷や汗、失神などの症状が生じます。】


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る