第21話⁂茂の熱い思い!⁂
あんなに仲良しで、窮地の2人拓郎と麗子ちゃんを助けてくれた、命の恩人茂だったのだが、茂の本心は只々憧れの麗子ちゃんの傍に居たい。
傍で見つめていたい。
そして…あわよくば付き合いたい。
結婚出来ればこんなに嬉しい事はない。
こんな下心有り有りで2人に取り入った茂は、拓郎に友達を装って近付き、{何としても拓郎から麗子ちゃんを引き離す方法はないものか?}模索し続けていた。
そして拓郎が出張で家を空けている隙に、麗子ちゃんに告白して何としてもOKを貰おうと命懸けで、あんな暴挙に出てしまった。
{俺は一世一代の勇気を振り絞り、このチャンスを逃したら拓郎と麗子ちゃんが、益々深い関係になり付け入る隙が無くなる。俺は物凄く焦っていた。今しか無い……そう思い、あんなに命懸けの熱烈な告白までしたのに、麗子ちゃんには届かなかった………そこで最後の手段、留めの一言『麗子ちゃん僕は麗子ちゃんを、一生幸せに出来る自信が有るんだ。だからあんな麗子ちゃんを、守る事も出来ない男なんか諦めてくれ!そして…そして俺と付き合ってくれ………!そうじゃないと拓郎も麗子ちゃんも、我が社から出て行って貰うからな!』ここまで言って脅したにも拘らず、逆に、この行動が功を奏して〔菱本酒造〕に戻る事が出来るなんて思いもしなかった………そして…あれだけ反対していた両親から、結婚もすんなり受け入れて貰えるってどういう事ヨ………?全く———ッ!踏んだり蹴ったりとはこの事、悔しい!今更麗子ちゃんを諦めきれる訳無いだろう!」
拓郎と麗子は、茂の心の奥底を知り、最近は距離を置いている。
「まさか俺が居ない時を狙って、大切な麗子を外に連れ出し強引にキスまでするなんて、そして…『俺と付き合わないと、この会社から追い出してやる』だと———ッ!
全く酷い話、あの優しくて親身に相談に乗くれていたのは、何だったんだよ?」
「私だって、あんな目に二度と会いたくないから、もう友情関係は解消したいわ!」
こうして今2人は、拓郎の両親共々赤ちゃんの誕生を、今か今かと待ちわびて、まるで今までの出来事が噓だったかのように、仲睦まじい関係を築いている。
そんな幸せ家族の前に、ある日突然茂が現れた。
それは、ある日突如として〔菱本酒造〕本社事務所に姿を現した茂なのだが、対応に出た事務員が出先の拓郎に早速電話を入れた。
わだかまりも有ったが、それでも…あれ以来半年近く全くの音信不通、懐かしさも相まって、急いで本社に車を走らせる拓郎。
久しぶりの事に近くの居酒屋で他愛無い話で盛り上がり、その日は別れた。
{あんな温和な奴が、あんな態度を取ったなんてまるで噓のような話だ。俺達も随分助けて貰ったから、会いに来た時くらいは付き合ってやろう}
そんな友達に会いたくて来た茂を、邪険に追い返せない拓郎の優しい思いとは裏腹に、突如として現れた茂の目的、それは、実は、麗子の顔が見たくて現れたのだ。
麗子が、本社の事務員として家業を手伝っていると人づてに聞いた茂は、会いたくて居ても立っても居られなくなった。
{だが、もう結婚しているから諦めよう}
そう思ったのだが………どういう訳か、自然と足が〔菱本酒造〕本社に向かったのだ。
{…拓郎もあんな事が有ったとはいえ、何の躊躇もなく門徒を開いてくれた………俺もいつまでも自分自身に強い制限を掛ける必要はない………結婚した麗子を思っても仕方のない事、もう諦めて未来だけを見つめるしかない。過去の事はキッパリ忘れよう!}
そう自分自身に強い制限を掛ければ掛けるほど、何か………?胸がつかえて、苦しくて息も出来ない程苦しくなるのだ。
一気に胸のつっかえが下りた茂は、
{世間の常識に囚われて、自分を押し殺して何の幸せが有る?自分に正直に生きなければ生きている意味が無い!}
感情が解き放たれた茂は、どうしても諦めきれない麗子に又しても会いに行った。
それは、お客として酒の注文に赴いたのだ。
すると……夢にまで見た麗子が事務所にいるではないか、茂が早速笑顔で手を振った。
「やあ!久しぶりだね」
すると……もうお腹も目立っている麗子ではあるが、一層幸せ光で美しさが増している麗子が茂に気付いた。
だが「いらっしゃいませ!」と笑顔は向けてくれたが、茂に気付くなり、そそくさと事務所から出て行ってしまった。
{どうしてだよ~?やっと会えたのに~}
冷たくされればされるほど、愛は不安と共に一気に膨れ上がり、茂の心の中の全てを支配して行く。
やがて事件は起きる。
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