木箱の正体(4)
すべてを話し終わった黒猫の使い魔は、洋介に自分の名を名乗るのを忘れていたことに気づき。改めるかのように、リリー王女の使い魔として、「リリカ」と名乗り。あとはこの2人がこの現実にどう向き合って行くのか。リリカは、しばらく何も言わず2人を見守ることにした。
しかし、あの洋介の三毛猫の使い魔、私と同じ女の子のようだけど、こんな状況によく寝ていられるわよね、なんっていう神経をしている。もしかして、洋介の使い魔だから、魔法の生みの親、最強の魔法使いだとでもいうの。新たな魔法の数々、発想は確かに凄い。でも、攻撃魔法は存在しない。ここが似ているのよね、前の魔法と、洋介の優しさなのか。そんなことを思いながらリリカは、松本サクラの隣に行き、その足もとに座った。
リリー王女は、この現実を必死で受けとめようとしている。小さく拳を握りしめ、この現実を噛み砕き、消化しようとしている。
あの黒の渦の中に、両親や魔法界の住人たちみんな吸い込まれて消えていった。なんで私だけ助かったのか。私はもう王女ではない、みんなの分まで生きなければ申し訳ない。どういう訳か知らないけど生かされている以上は、ここで泣く訳にはいかない。
見知らぬ土地で暮らし、これからどうやって生きていけばいいのか。松本サクラとして生きていくしかないのか。でも、私にはリリカがいる魔法使いでまだいられる。せめてもの救いはそこだけ。そんなことを考えながらリリー王女は、やはり王女なのか、松本サクラとして生きていくことを決めた。
サクラの隣に座る洋介は、困惑の渦を跳ねのけようとしている。
冷静に考えれば、何も問題はない。ただ1つ問題なのは、青の魔法石の企み。いったい何を企んでいる、こいつは何を考えている。
魔法使いになったことは別に問題ない、なってみたいと思ったことがあるから別にいい、ワクワクしている。しかし、なぜサクラと一緒に暮らす必要がある、なんの罰ゲームだ。
設定では、すでに一週間は経っている。サクラちゃんは弁当を作るし、夜はサクラちゃんの手料理を一緒に食べるし。私の部屋は2階、サクラの部屋は1階、これだけは譲れない。
あいつらはあいつらで、私を冷やかしてくるし。このまま結婚するんじゃないの、とか冗談を言うし。なんでこんな設定にするのか。こいつは、私をからかって面白がっているに違いない。冗談じゃない、そうはいかないからな。サクラの両親を助けだし、魔法界の住人たちを助ければ、私はこの設定から解放されるはず。あの魔法を使えばなんとかなるはず。それには青の魔法石の協力が必要なんだけど、こりゃ、厄介だな、なんとかするしかない。
その時、洋介の三毛猫の使い魔があくびを1つし、初めて口を開いた。
「洋ちゃん、その魔法、今のあなたには無理、魔法はそんなにあまくないわよ」
「
「タイムトラベル魔法は、上級者用の魔法。洋ちゃんは初心者、そんなことも忘れたの?」
「そうなの? 違う違う、なんで喋るかなー……」
洋介は、青の魔法石をチラッと見て、バレたなと思っていると。タイムトラベル魔法と聞いたサクラは、目の前にある魔法大辞典をジッと見ながら。
「風花、私でもタイムトラベル魔法を使える?」
「なんに使うの?」
「決まってるじゃないの!? 過去に戻って魔法界の人たちを助けるの」
「助ける!? どうやって? 何年前に戻ればいいのか、わからないんだよ? それに、新しい魔法に対応していないあなたに、今は無理ね」
サクラは肩を落とし、何も言えず、無理なのかと思っていると。洋介は、仕方ない、ここは私の出番だなと思い。
「風ちゃん、今は無理でも練習すれば魔法は使えるんだよね? それに、何年前に戻ればいいのかわかるよ、それも正確にね」
「どういうこと?」
「わかんない? 仕方ないなー、こいつが知ってるよ、青の魔法宝石がね」
「……そうか、そういうことか、でも、そんな合わせ魔法なんて、そうか、つくればいいのか」
「そういうこと、なければ新しくつくればいいだけのこと」
「さすが、最強の魔法使いになる男は違うね」
「よく言われる」
「誰に? 調子に乗らないの!? 魔法は初心者なんだからね!?」
「はーい、練習します」
「何その気の抜けた返事は? サクラちゃん、洋ちゃんの面倒みてやってね、一応魔法使いの先輩なんだから」
「えっ!? 私が教えるの?」
「一緒に一から覚えるの!? 2人で協力してね。私たちが教えてもいいけど、それじゃ意味がないのよ」
「そうなの?」
「そうなの!?」
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