謎の木箱(6)

 洋介が言っていた、例の件とは、去年の忘年会まで遡る。


 恒例行事の忘年会の会場は、決まって、2階建の4LDKの洋介の自宅。一人っ子だった洋介には広すぎる家、店の裏手にある。

 午後6時30を過ぎ、従業員みんな集まり、忘年会が始まり。午後7時を過ぎたころ、お酒を飲まない洋介と島田主任は、いつものようにソファー座り、テレビを点けて見ていると。

 ふと島田主任が窓の外を見ると雪がちらつき始め。突然、島田主任は、洋介に話があると言い、外に連れ出し、洋介は訳がわからずついて行き。2人は、搬入口停めてある、2トントラックに乗り込み、島田主任はエンジンをかけ、エアコンの暖房を点け。車内の時計は、午後7時30分を過ぎ。車窓からは、街灯の灯りに照らされ雪が降っている。こんな寒い中、島田主任は、洋介の将来のことを聞いてきた、この先どうするのか。


 洋介は、島田主任にこんな話をしていた。

 鑑定士として重要ことは、品物を見る観察力、繊細な注意力、モノの価値を見極め、本物か偽物かを見極めること。しかし、最も重要なのは、その歴史や制作背景、作家のことを知り、その特徴、作品の時代背景、作風、交流関係などを知ること。

 例えば、この絵画はどんな想いで制作されたのか、この壺にかける想いとは、そんなのことを知りたい。しかし、骨董品に興味はあっても、収集家ではない。


 洋介は、突然の質問に困惑していたが。洋介には、親戚はおらず。遠い、遠い親戚はいるようだが、いていないようなもの。

 結婚の予定はない、いや、そもそもそんな相手すらいない。確かに、若い時は結婚を夢みたこともあった。結論から言えば、すべては片思いだったのか、もう恋愛はいいかなと思い。「結婚」、この2文字は洋介には関係ない文字。しかし、充実した毎日を送っている。


 そんな中、洋介はちゃんと考えていた。

 もし私に何かあったら、すべてを島田光一任せる。なんか無責任のようだが、すべての財産を光ちゃんに譲り、骨は光ちゃんに拾ってもらい、墓の管理もお願いしたい。

 確かに、ずうずうしいお願いだ。しかし、こんなことを頼めるのは光ちゃんしかいない。但し、万が一にもありえないことだが、もし私が結婚をした場合は、この話は白紙に戻すかもしれない、まだ先のことだが。心配するな、100歳まで生きてやると言った。


 8年前、島田主任は夢もなく、やりたいことも見つからず。そんな時に先代に拾ってもらって、鑑定士という生きがいを見つけた。ただ、洋介が亡くなったあとのこと、誰が骨を拾うのか、あの家はどうするのか、この店だってどうするのか、誰が後を継ぐのか、結婚はしないというが。確かに、気が早すぎる、それはわかっている。ただ、先代には恩義がある。ふと急にそんな気分になった。


 島田主任は、思ってもみないことを聞かされ、嬉しいような、喜んでいいのか、そうでないような、不思議な感じだが、ここに骨を埋める覚悟は8年前からしている。

 7歳年上なのに、いきなり洋ちゃんでいいからと言うし。まるで友達のようで、兄とは考えたことがない。もちろん尊敬はしている、感謝もしている、感謝しかない。洋ちゃんは洋ちゃんなんだけど、店長なんだよな。私が支えないといけないと思うし、かといって頼りない訳ではない。

 洋ちゃんにはもの凄い能力がある、ずば抜けた記憶力。目にした物を瞬時に記憶し、瞬時に比較できる。

 鑑定士として、洋ちゃんには叶わない。人間としても、と言いたいけど、なんだろうなと思う。いい人はいい人、それだけは言える。とにかく、この件は引き受ける。しかし、誰かいい人いないかな。

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