第6話 行方不明

 寝返りを打った時、すごい音がした。

 ゴツン、と響いた音で、僕は目を覚ます。頭をぶつけたのだろうか?

 その音がしたすぐ後で、僕の体がフワフワと浮かび上がった気がした。ーーこれって、気のせい??

 

「ーーよいしょ」


 その言葉と共にまだ幼い顔つきの男の子を見つけた。僕はその男の子に名前を聞く。

 小柄なその男の子は、ベッドの横に立っていた。


「ーー君は?」

 

「ナマエーーナマエはない……みんなには「主」と呼ばれている」


 この少年の顔を僕はどこかで見た様な気がした。

 記憶を辿る……。

 

ーーあ、思い出した。あの時の……。


 僕が主と呼ばれている彼を見たのは、この家に初めて引っ越してきたその日、あの夢の中だった。僕の事を睨み、起きて、起きて!と言っていたあの子だ。


 主と呼ばれている男の子は、僕が隠れていたベッドの下を指さした。

 今の僕からはベッドの上の僕が使っていたキャラクターモノの布団の模様が見えている。


 ……?


ーーえっ?

ーーえっ??

ーー何コレ??


「僕、飛べるようになったの?!」

 

 僕は咄嗟に主と名乗った男の子に聞いた。

 それ以来、今僕に起こっている事が全く理解できないまま、言葉を失った。


 一体どう言う事なんだろう?僕は今日、何をしていた??


 ーーそういえば僕、かくれんぼしてて、ベッドの下に隠れてたんだっけ?


 だんだんと目が覚めてきて、これまで何をしていたのか?ーーその記憶が戻ってくる。僕は隠れていた事にも飽きてきて、今何が起きているのかもわからない。

 ただ一つだけ言える事は、僕の魂がフワフワと浮かび上がっていると言う事だけ。どう言う事なのか、僕にはわからない。主と名乗った男の子は、何も答えてくれないし、裕太くんに相談したい気持ちで、僕は裕太くんのところに行った。


「ーー裕太くん……違うよ。僕はココにはいないんだよ……。2階にいるんだ?!ねぇ、聞いてる??ーー僕の話しを聞いてよ!」


 僕の声は裕太くんに聞こえていない様で、僕の方さえも見てくれない。

 

 ーーどうして?

 ーー何で僕の声を聞こえないふりするの?!

 

「僕は2階にいるんだよ!早く見つけてよ!!」


 何度も裕太くんの視界に映る様に、目の前に行っては、あの時僕がかくれた場所を伝えてるのに、完全に無視されているのだろうか?

 いや、違う。裕太くんはそんな事しないはずだ。


 鬼の裕太くんはアゴに手を乗せて、うーん、と唸りながら、部屋をすべて見渡す。

 そして裕太くんがぼやいている。


「うーん。2階で隠れられる場所は……」


 マンガ本ばっかりだけど、本棚も本がビッシリと詰まっている。

 僕がどこに隠れているのか。わからないみたいで、トイレの中も開けては、ため息をつきながら、いないと裕太くんが頭を振っている。

 後探してないところは、押し入れの中だ。


 裕太くんはそこに僕がいると思ったのか?豪快に押し入れを開けたが、まだフタをされたままの段ボール箱がいくつか出てきただけで、僕はそこにはいなかった。


「僕はベットの下にかくれたんだってばー!!裕太くん、気づいてよ」


 フワフワした体のまま、僕の目の前に天井が近づいてくる……。


ーーうわっ、ぶつかる……。


 僕は咄嗟に目を塞いだが、痛みも何もなく、不思議だったが、僕は再び目を開けた。

 再び、天井が目の前に広がっていく。


ーーコレってやっぱり、幽体離脱……ってやつかなぁ??


 ※


 かくれんぼを初めて、どれくらい経った頃だろうか?


「京一郎くーん、出てきてくれよ!ーーもう降参するからさぁ」


 裕太くんがそう大きな声で「降参」と叫んでるのを見て、捕まっていた幸雄くんが言う。


「一緒に探してあげるよ」


「ありがとう。俺ももう一度探すから一緒に探してくれ!」


 今にも泣き出しそうな顔で、裕太くんが言う。

 二人で色々なところを探しても、まだ僕の事が見つけられない。


「ーーここの主にも探してもらうよ」


「ーー主?そんなものいるのか?……じゃあ、あの時、圭が言ってたのはホントだったんだ……」


 裕太くんが聞き返してくる。


「少なくとも本人は主だと思ってる……」


 幸雄くんが突然、壁に向かって話しかけた。当然のように裕太くんには、何もいない様に見えているのだろう。

 何も見えていないからだろう。裕太くんは、落ち着きなく当たりを見渡している。


「ここの家の京一郎くんは、どこにいるの?」


 すごく穏やかな口調。

 その後の返事を待つような無言。


「アイツなら、もう会えない?」


「おい、何を言ってるんだよ?!幸雄くん、会えないわけないだろ?まだ友達になったばっかなんだ」


「違うんだ。これ、この家の主だと思ってるやつが言ってるんだよ!」


 この家の主にまで聞いてくれていた、幸雄くんの顔がだんだんと青白くなってから、静かに言った。

 

「ーーこれって、もしかして……やばいんじゃねーか?」


ーーまさか、事件?!そんなはずはないだろう。

でも、この狭い家の中で、こんなに探しても見つからないなんて。


「どうしよう?」


「とにかく、京一郎くんのお母さんに相談してみよう」


 こうして、裕太くんと幸雄くんが、お母さんのいる1階に下りていく。その後に僕も続いた。


「おばさん、大変なんだ。京一郎くんが……京一郎くんが……」


 今にも泣きそうな震えた声で、裕太くんが僕のお母さんにそう言って泣いている。

 ほんとにもうどうしたらいいのか、わからなくてーー。

 

 裕太くんが困った顔をしている。

 

 だけどさぁ。近くを僕がウロウロしているのに、裕太くんってば、ぜんぜん気づいてくれないんだもん。


「あなたは、裕太くんね?!」


 お母さんはまだどっちが、どっちなのか?分かっていないようで、名前を確認した後で、深呼吸を3回してから言った。


「裕太くん、ちょっと待って……落ち着いて……!京一郎がどうしたの?」


「俺たち、3人でかくれんぼしてたの。それで俺が鬼で探し回ってて、でも、見つからないんだ。京一郎くんだけが……」


「京一郎くんのお母さん、、どうしよう?」


 必死な顔で裕太くんがお母さんに助けを求めている。その姿を見て感情があふれ出したのだろうか?突然、隣にいた幸雄くんも泣き出した。

 ほんとに泣きたいのは僕だよ。近くを通っても気づいてもらえず、声をかけても知らんぷりされて……僕はどーしたらいいの?


「早く僕に気づいてよ!!」


 お母さんは小さく頷いてから言う。


「もう一度、お母さんと一緒に探してくれる!?」


「はい」


 三人でもう一度、僕を探す事になったらしい。



 

 




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