第3話 僕の家

 裕太くんに案内してもらい、僕は家にたどり着いた。家を見た瞬間、なぜかホッとした。


 ーー帰って来れたんだ。


 圭くんは後から来ると言っていた。住所を伝え、家で待つことになった。

 

「お母さん、ただいま!僕は友達に家まで連れてきてもらったんだ。後からもう一人、遊びに来るからね!」


 お母さんが駆け足で玄関に立つ。


「うちの京一郎を連れてきてくれて、ありがとう。今後も仲良くしてあげてね」


「僕の部屋、二階なんだ。裕太くん、上がって!」


 裕太くんを僕の部屋に呼んだ。


「お邪魔します」


 キチンと靴を揃えて室内に入り、階段のところで裕太くんが止まっている。


「どうしたの?裕太くん、コッチにおいでよ」


 階段の手すりに手を乗せ、裕太くんがようやく階段を上り始めようとしたその時だった。


 ピンポーン。


「はーい」


 エプロンをつけたまま、お母さんが玄関に向かう。


「あの…自分は京一郎くんと遊ぶ約束をしていて…」


 栗原圭だ。


「初めまして。京一郎の母です。これからも京一郎をよろしくね」


 階段からヒョッコリと顔を出して、僕は栗原圭を呼んだ。


「僕の部屋、二階なんだ。コッチにきてよ!」


 圭くんは階段を見上げる。

 そして裕太くんと共に、ゆっくりと階段を上り始めた。


 ※


 二階に上がると、圭くんが興味深そうにあたりを見渡している。


「この家…」


 ーーはぁぁぁぁ。


 圭くんが突然大きなため息をついた。


「え…?え…?」


 突然、大きなため息をついた圭くん。

 僕は圭くんに何かイヤな事をしたのだろうか?

 考えても思い当たる部分がない。それなのに、このため息は…不安になってしまう。


 そんな時。

 僕の気持ちを察した様な裕太くんに、腕を引っ張られ、部屋の端っこに連れて行かれた。


「言ったろ?アイツの行動は、気にしなくていい。例の病気が出たんだ」


 裕太くんが小声で僕にそう言った。


「病気?」


 僕は聞き返した。

 

「アイツには他の人に見えないーーつまり、霊が見えるんだ。だから、霊がいるとかそろそろ言い出すはずさ」


 圭くんの行動パターンが読めているのか?

 随分と落ち着いた口調で、裕太くんが僕に言った。


「京一郎くんと言ったね?」


 名前を確認するようにして、圭くんが言葉を話した。


「ーーそうだけど」


「ーー京一郎くん、君は歓迎されていないようだよ?この家の主にーー」


 ーーは?


「ーー何を言ってんの?ここは僕の家だよ?主は僕たち一家だよ」


「京一郎くん、君は階段から落ちたんじゃないか?」  


 大真面目な顔で、圭くんが僕に言う。


「だから何なの?階段から落ちるくらい誰にだってあるでしょ?」


 必死で僕はそう答えた。


 圭くんは部屋の隅をそっと指さした。


「い…いるんだよ。そこに!!」


 真っ青な顔で、圭くんが言う。


「お前な、いい加減にしろよ!ーー人の家に遊びに行く度にそこに幽霊が…とか、ふざけた事ばっかり言いやがって!」


 裕太くんが今にも圭くんを殴りそうな勢いで、圭くんの胸を掴んだその時、階段を上がる足音が聞こえた。


 ーーお母さんだ。


「お菓子とジュースを持ってきたわよ!楽しんで行ってねー!」


 お盆を置き、子供たちの顔を見ると、お母さんが言った。


「何かあったの?」 


「いえ、別に…」


 裕太くんは学校にいた時と同じように、穏やかな表情に変わった。


「この話しを聞いておかないと、あなた方は大変なことになりますよ?」


 お母さんの前でも、圭くんはそう言った。


「君、名前は?」 


 お母さんが圭くんに名前を聞く。


「栗原圭です」


「圭くんね、あなたの話しは私が聞きましょう」


 裕太くんがお母さんに耳打ちする。

 おそらくさっき僕に言ってくれたような助言だろう。


「大丈夫よ。心配しないで」


 お母さんは、裕太くんに笑顔でそう返事してから「裕太くんは京一郎と遊んでいてね」と言った。


 そして圭くんとお母さんは一階に下りていく。


「京一郎、お前のお母さん、大丈夫かなぁ?」


 裕太くんが心配そうに、僕に言った。


















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