第29話 回復役
アルが空間で待機していると、コウモリの翼を背中に生やした貴族服を着た肌の赤いヤギ髭悪魔が落ちてきた。
「おおッ!強そうな悪魔だなッ!階級は子爵クラスかな?」
ヤギ髭悪魔は、事態をのみ込めていないのか、周りをキョロキョロしていた。
『な、なんだ!?小生はなぜ、こんな場所に!?…人間…?貴様の仕業か?』
アルは“天叢雲”を鞘から抜くと、左手を前に出して魔法陣を展開する。
「ちょっと後がつかえているから”巻き”でいかないといけないんで、悪いけど、いくぜッ!」
…セイクリッド・ダイムサンダー(光魔法)…
聖なる稲妻が生み出され、激しい音を立てながらヤギ髭悪魔を襲う。
『グゥゥゥゥッ!光魔法!?上空からの襲撃も貴様の仕業かぁぁぁぁぁッ?』
ヤギ髭悪魔は、闇のオーラを両手に集中させて聖なる稲妻を押さえ込むと、アルに向けて憎悪を込めた表情で睨みつけた。
「ご名答ッ!それじゃ、ここで俺の糧になりやがれッ!特技―デーモン斬り―」
アルは、ヤギ髭悪魔の反応を一切気にすることなく、高速で接近すると“天叢雲”を使い攻撃を開始した。
『おのれぇぇぇッ!そう簡単にはやられはせんぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!』
…ガキンッ…
…ガキンッ…
…ガキンッ…
ヤギ髭悪魔は自身の爪を1メートル程伸ばすと鋭利な鉤爪を作り出してアルの斬撃を捌いていく。
「…やるじゃねぇかよ。これは少し持久戦になりそうだな…。」
攻撃をすべて捌かれたアルは、距離を取ってヤギ髭悪魔を観察する。
(闇のオーラを身に纏う防御系か…。ここは焦らないで安全にいくか…。)
『クハハハッ!先ほど、子爵クラスと言ったが小生は侯爵クラスだッ!持久戦になれば、脆弱な人間よりも体力のある悪魔族である小生が有利なのは明白ッ!』
(防御系の実力者相手に力で攻めるのは愚策。ダメージを優先するよりもエネルギー回復を優先した方が無難だな。)
「やっぱり、侯爵クラスか…。侯爵クラスは、まだ”圧倒するのは難しい”か…。」
ヤギ髭悪魔は、より濃密な闇のオーラを身に纏い始める。
『クハハハッ!“のぼせ上がるなッ!小童がぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!小生は侯爵クラス中でも最上位の悪魔貴族なのだぁぁぁぁぁッ!人間ごときと良い勝負しているだけでも一生の汚点なのだぁぁぁぁぁッ!死ねぇぇぇッ!』
闇のオーラを具現化させて漆黒の鎧を纏ったヤギ髭悪魔が襲いかかってきた。
「チィッ!更に守りが堅くなりやがったッ!仕方ねぇな、とっておきの技を見せてやるぜッ!”コンボ特技”―獅子連斬→」
アルは、襲ってきた悪魔に向かって剣を振ると同時に獅子の姿の衝撃波を次々に放った。
『この感覚は、聖剣か!?だが、軽いわぁぁぁぁぁぁぁぁッ!』
ヤギ髭悪魔は、アルに近づきながら衝撃波を鉤爪で掻き消していく。
「まだまだぁッ!コンボ特技―流星剣→」
アルは衝撃波を撃つのをやめると、高速の斬撃を放ち始める。
『ぐ、ぐぅぅぅぅッ!…な、なぜ特技が続くのだぁ?コンボ特技!?そんな技、聞いたことがないぞぉぉぉッ!』
予想外の攻撃に、ヤギ髭悪魔は高速の斬撃をすべて受けてしまう。
「コンボ特技は、俺が編み出した世界初の技だからなッ!まだまだいくぜぇッ!コンボ特技―八卦剛力斬星→」
続いて、アルは八連続の力の込めた突きを放つ。
『せ、世界初の技だとぉぉぉッ!?…グゥゥゥゥッ!…貴様は危険だ…。…これ以上、手に負えなくなる前に、始末しておかなくてはッ!幸い、今ならば刺し違える覚悟があれば倒せるはずぅぅぅッ!』
八連続の力の込めた突きも全て受けたものの闇の鎧で防御できていることを確認したヤギ髭悪魔は、捨て身の攻撃に切り替え始め、防御捨てて襲ってきた。
「刺し違える覚悟か…。良いぜッ!コンボ特技―分身剣→飛燕連斬→虎伏双斬→ソニックブレード→…」
アルは、スピードを一段階引き上げてスピード重視の特技を組み合わせたコンボを次々に決めていく。
ヤギ髭悪魔は、アルの体力切れを期待して襲い続けたが、次第に焦りがみえてくる。
『グギャァァァァァァァァァ……なぜ、こんなに連撃を放って体力が続くのだ?…それに攻撃を食らう度に、闇の鎧が削られるような感覚が…?』
そしてようやく、ヤギ髭悪魔は自身のエネルギーが吸い取られていることに気づき始める。
「ようやくわかったのか?この聖剣は、切りつけたモノのエネルギーを吸収するんだぜ。わざと鎧を攻撃してたんだぜ。気づかなかったか?おかげで、半分くらい回復したかな。ありがとよッ!」
…パワーライズ(光魔法)…
…パワーチャージ(光魔法)
…リフレックス(光魔法)…
アルは、種明かしをするように今度はヤギ髭悪魔にもわかるように体力や気力回復魔法を使った。
『う、嘘だ…。小生は回復役に使われていただとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!』
ヤギ髭悪魔は怒りの叫びをあげたが、アルには全く届かなかった。
「でも、お前は十分に強かったよ。でも、一対一では俺の方が強かったってことだな。」
…シャイニング・フォース(光魔法)…
アルは、光のオーラを“天叢雲”に纏わせて、攻撃力を引き上げた。
ヤギ髭悪魔の筋肉を肥大化し眼球全体が黒く変化し始める。
(深化か…。)
『…何を勝負がついたかのように話をしているのだ?貴様は、ここで道連れにしてやるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅッ!特技―自爆散―』
ヤギ髭悪魔は深化するとすぐに、体内のエネルギーを増幅させ、身体全体を風船のように膨らませ始めた。
「お前達、悪魔は芸がないよなぁ~。隠しダンジョンにいた子爵クラスの悪魔も最後に同じ技で自爆してきたぜ。お前とは心中する気はないからおさらばさせてもらうぜ、バイバイ。」
!!パチンッ!!
指を鳴らすとアルの姿が消えた。
『か、隠しダンジョンにいた悪魔!?封印の紋章を回収に行ったヴォイドの事か!?ま、まさか封印の紋章が人間側に渡った!?ま、不味いぞ…。ま、まずは、自爆を解除しなくては…。』
ヤギ髭悪魔が自爆を解除しようとした時に背後から声が聞こえた。
≪いや~☆自爆の解除もできるのですか☆私は封印の紋章の管理者“テスラ”でございます☆以後お見知りおきをいただかなくでもいいですよ☆≫
ヤギ髭悪魔が振り返ると、テスラが優雅にお辞儀をしていた。
『ふ、封印の紋章の管理者か!?小生の前に現れたということは試練を受けさせてもらえるのか?』
テスラは笑顔で首を横に振る。
≪いいえ☆先ほどの光魔法使いの御方が新しい主様ですので、あなたに試練はしません☆あの御方に誠心誠意命を懸けてお仕えするのであれば、従者の試練を受けさせてあげなくもないですけどね☆≫
肥大化を続けるヤギ髭悪魔は驚きと怒りで震え始めた。
『封印の紋章を奪われただけでなく、封印まで解かれただと…。ふざけるなッ!お前達は、悪魔族の所有物の筈だッ!大人しく我々に従えッ!』
テスラは大袈裟に両手を広げて、手のひらを上に向ける。
≪所有物とは大きく出ましたね☆私達は試練を乗り越えた個人に仕えるのであって、種族に仕えているわけではありません☆ああ、自爆を解除しなくても良いのですか☆手遅れになりますよ☆≫
テスラが完全に人間側についたことを理解したヤギ髭悪魔は肥大化の速度を加速させた。
『光魔法使いは道連れに出来なかったが、お前を道連れにするのも良いだろう。敵に渡るくらいなら、消滅させた方がマシだからなッ!』
テスラは大袈裟にため息をつく。
≪いや~☆そうですか☆お好きにどうぞ☆まあ、解除したくても“ロック”したから、どっちでも良いですけどね☆ああ、せっかくなので自爆する瞬間に元の場所に戻してさしあげますので、感謝してくださいね☆≫
テスラの言葉で、ヤギ髭悪魔の表情が変わった。
『な、なんだとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!…か、解除ができない…。…や、やめてくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!何でも言うことを聞くからッ!』
テスラは平坦な声で要求を次々に突き付ける。
≪じゃあ、今回の進軍を止めてください☆≫
『そ、それは…、小生だけの判断ではできかねる。』
≪じゃあ、あなたの部隊だけでも即時撤退してください☆≫
『そ、それもできない。それをすれば、味方から討たれてしまう。』
≪う~ん☆じゃあ、大負けに負けて、大将首をとってきてください☆それで許してあげます☆≫
『た、大将首なぞ、無理に決まっている。あの悪魔将軍には小生でも敵わない…。』
≪そうですか☆じゃあ、その悪魔将軍のところで自爆させてあげます☆さて、悪魔将軍とやらは、自爆を受けてどれ程のダメージを負うか楽しみですね☆≫
ヤギ髭悪魔は、テスラから少しでも離れようと回れ右をすると走り始めるも、自爆の時が来てしまう。
『お、お前達は狂っている…。魔族は世界で最も偉大な種族なのだぁぁぁッ!みんな、魔族にひれ伏さなくてはいけないのだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!……うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ…ギュギョバァァァァァァァァァ………………………………………………』
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