第27話 無料(タダ)

アル達は、ザックパパに連れられて街の中心にある領主館の応接室のソファに座っていた。


「親父さん…、この街の名前について説明してもらおうか…。“シャイニングアルフレッドタウン”ってなんだよ。」


不機嫌な様子のアルに、ザックパパはにこやかに話し始める。


「ホッホッ!流石、アル様ッ!我ながら良い名前をつけたと思っていた…と…こ…ろ…、ごほんッ!…そんなに睨まないでください。…説明ですね?…いいでしょう…。…実は、この街は一か月前ほど前に、突然、魔王軍から宣戦布告を受けたのです。この街は魔族領に接している国防の要である辺境の地なのですが、こともあろうにアサド辺境伯が進軍してくる魔族の大軍に恐れをなして逃げ出そうとしたのです。そこで、辺境伯と正式な契約を結んだ上で、この地をほぼ“無料(タダ)”同然で譲り受けのです。」


“無料(タダ)”の言葉に、アルが即座に反応する。


「“無料(タダ)”って言ったか!?おおぉぉぉッ!“無料(タダ)”でこの土地をぶんどったのかッ!流石、親父さんッ!やるじゃねぇかッ!…でも、なんで街に俺の名前がついてんだよ?親父さんの街だったら、自分の名前をつけるのが一般的だろ?」


少しずつ機嫌を取り戻してきたことに安堵しつつ、ザックパパは話を続ける。


「ホッホッ!辺境伯を譲り受けたのはアル様なのです。アサド元辺境伯も、光魔法使いに譲り渡した方が面目が立つと喜んでおられましたよ。なに、心配ありません。辺境伯の実務的な仕事は私がしますので、アル様は今まで通り、ご自分の信じる道を進んでください。私もアル様が辺境伯程度の役職におさまるとは考えておりませんから。」


アルは、腕を組みながら目を閉じて暫く考えた後、部屋にいるヴァンとザックの表情を確認する。


(う~ん。“無料(タダ)”かぁ…。ヴァンとザックの表情をみても悪い感じは無しか…。親父さんは、昔から俺の不利になるようなことはしたことはないから信じてみるか。)


「なんか腑に落ちないところがあるけど、親父さんに任せていれば悪いことにはならないし、まあいいかッ!親父さん頼んだぞッ!」


ザックパパは深くお辞儀をする。


「全身全霊で勤めさせていただきます。」


アルは満足そうに頷くと、次の質問を始める。


「後の問題は、進軍してくる魔族達だろ?ソイツらを片付けたら俺達は丸儲けってことだもんな?」


ザックパパは嬉しそうに答える。


「その通りです!流石、アル様。話が早いですな!攻めてくる魔族を無事に殲滅できれば、アル様のおっしゃるとおり丸儲け状態です。」


(魔族さえいなくなれば、まさに丸儲け状態…。辺境伯にしてみれば、価値が失くなる予定のモノをタダ同然で譲り渡したら、価値が失くならないんだからな。)


「ちなみに、魔族達はどこまで迫って来てるんだ?」


ザックパパは、懐にしまっていた地図を広げながら答える。


「先ほど国境を通過したとの知らせが入りました。こちらの街に着くのは三日後くらいでしょう。」


(国境まで全力で飛んでいけば2~3時間程度か…。どの程度の軍か知りたいし行ってみるか。幸い、レベリングでリフレッシュしてるから体力も気力も満タンだしな。)


「よしッ!オレとヴァンとテスラの三人は、今から魔族の数を減らしにいくぞッ!ザックとムトゥは、騎士団を連れて隠しダンジョンでレベリングしてくれッ!サリバンは、ここに残って連絡係をしてくれッ!そして、三日後にここで決着をつけるぞぉぉぉッ!」


ヴァンは笑顔で同意する。


『地獄のレベリングをしてきたのに、これからすぐに出発するのかい♪アハハ♪アルは、レベリングでは疲れるどころか元気になる特殊体質だもんね♪うんうん♪もちろん♪付き合うよ♪せっかくだから、どっちが多く魔族を倒せるか競争しようよ♪』


テスラも戦場での活躍の場を得たことでやる気を漲らせた。


≪私が護衛をしながら、主様とヴァンがひたすら遠距離攻撃するのも良いですね☆いや、指揮官クラスを個別撃破していくのも悪くありませんね☆クフフ☆ようやく訪れた戦場で武勲をあげられるチャンス…頑張らないといけないですね☆≫


レベリング疲れが残るザックは、ため息をついていた。


「またレベリングですか…。」


ムトゥは、騎士団のメンバーひとりひとりを観察していた。


≪でも、この騎士団の連中をあのダンジョンでレベリングさせたら相当化けるぜ。特に、この黒髪のヤツはオレといい戦いできるくらいにまでなるぜッ!≫


東国の服を着た黒髪の男は、ムトゥの馴れ馴れしい態度に声をあげる。


「ムッ…。さっきからアル殿に馴れ馴れしい態度をとるこの上半身裸の怪しい輩は何者でござるか?アル殿に仇なすならば、このアルフレッド騎士団の団長である”コジロウ”が成敗してくれる。」


コジロウが腰に差していた刀の柄に手をかけると、ムトゥも戦闘態勢に入る。


≪あ"ぁんッ?誰が怪しい輩だってッ?てめぇ、目が腐ってんのかぁ?いいぜッ!レベリングする前に大海の大きさを見せてやるぜッ!蛙ちゃんよぉぉぉッ!≫


アルが立ち上がり、コジロウとムトゥの頭に拳骨を落とす。


「この、バカちんがぁぁぁぁぁッ!お約束の喧嘩はやめろってんだよッ!時間ねぇんだよッ!早く行けよぉぉぉぉぉぉぉぉッ!」

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